株式会社JALグランドサービス大阪
グランドハンドリング
福田さん

「実は私、人見知りなんです」
明るい笑顔でそう打ち明けてくれたのは、伊丹空港でグランドハンドリング——通称「グラハン」として働く福田さん。きれいにネイルされた指先が印象的な彼女が立っているのは、飛行機のすぐ真横です。到着した機体から手荷物や貨物を降ろし、次の出発に向けて積み込む。その勝負時間は、わずか35〜40分。
でも、ここにたどり着くまでが順調だったわけではありません。もともと目指していたのは、グランドスタッフとして空港のカウンターに立ち、搭乗手続きや手荷物の預かりを行う仕事。就職活動では2次・3次選考で落ち続け、悩んでいた福田さんを動かしたのは、母のひと言でした。
「第一志望じゃなかった。でも今は、グラハンでよかったと思えます」。接客が得意じゃなくても、第一志望に落ちても、自分に合う仕事には出会える——そう語る福田さんに、空港の"裏方"という働き方について伺いました。
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--- 福田さんが航空業界に興味を持ったきっかけを教えてください。
小学生の頃に、家族でグアムへ行ったことがきっかけです。当時、父に病気の予兆があって、家族の思い出のために、海外旅行に行こう!と。初めて飛行機に乗って、そこでCAさんという仕事を知りました。
父はその後、無事に全快。でも、その後も家族で毎年のようにグアムへ行きました。実家には、そのときのJALのお子さまグッズ、機内で買ったお弁当箱がいまも大事に取ってあります。それ以来、航空業界にずっと憧れを抱いていました。


--- 進路を考える時も、航空業界を目指していたのですか。
はい。ただ、高校生の頃は看護師になる道も考えていました。看護師か航空業界かで迷ったのですが、最終的には子どもの頃から憧れていた航空の世界を選びました。
大学はCAなどに就職している方もいらっしゃると聞いて、国際観光学部に進学しました。
--- 就職活動では、最初からグラハンを目指していたのでしょうか。
いえ、最初に目指していたのはカウンター業務でした。JALのカウンターで働きたいと思っていて、伊丹空港や関西空港、那覇空港などのカウンター業務に挑戦しました。
でも、2次選考、3次選考で不合格になってしまって。どうしようかなと考えていた時に、母が「グラハンもあんで」と教えてくれたんです。
--- お母さまは、航空業界に詳しかったのですか。
母というより、兄の影響が大きいと思います。3つ違いの兄が、すでに航空業界で働いていたからなんです。兄の就職は「氷河期」と言われるタイミングだったんですが、一旦、違う業界に就職して、半年後にあきらめきれずに再チャレンジ。ANAの石垣島のカウンター業務に就職し、いまも変わらず、「南ぬ島 石垣空港」で働いています(笑)。
母は、今でも突然この空港に来ることがあるんです。ふと見ると、展望デッキに「おるやん」って(笑)。私に会いに来たという感じでもなく、ただ飛行機を見に来ているみたいです。もともと飛行機が好きなのかもしれません。
そういう家族の存在もあって、航空業界はずっと身近な場所だったのかなと思います。

--- そんなご家族からの後押しがあって、沖縄の那覇空港のグラハン業務への就職を決められたんですね。
はい。募集はグラハンでしたけれど、その後、カウンターへ異動できる可能性もあると聞いて挑戦。そして2017年4月、JALスカイエアポート沖縄株式会社に入社しました。
--- 入社後は、どのようなお仕事を担当していたのですか。
那覇空港では、グランドハンドリングの中でも、貨物に関わる仕事を担当していました。
貨物は、一般のお客さまや企業、郵便局などから預かった荷物を、飛行機に載せられる形に準備する仕事です。
--- 貨物では、どんなものを扱っていたのでしょうか。
本当にいろいろありました。沖縄は陸の移動がないので、急ぐものは飛行機で送った方が早いんです。ハンコを送る方もいましたし、年賀状やはがきなども扱いました。
動物を預かることもありました。ヤギもいましたよ。
--- ヤギですか?
はい、貨物としてお預かりして、飛行機に搭載します。沖縄ならではかもしれません。
でも、珍しいものを扱うだけの仕事ではありません。貨物には、出発の何時間前までに準備しなければいけないという締め切りがあります。危険物のルールや、荷物の扱い方も細かく決まっています。
自分たちがミスをしたら、その荷物が予定通りに乗らないこともあります。目立つ仕事ではありませんが、飛行機を安全に飛ばすために欠かせない仕事だと思います。
--- 沖縄での生活はいかがでしたか。
楽しかったです。知り合いがいないところから始まりましたが、職場で仲のいい人もできましたし、沖縄の生活も楽しんでいました。
ただ、地元の兵庫県にいつか戻りたいという気持ちもありました。そんな時に、沖縄時代の先輩から「伊丹空港でグラハンのキャリア採用が出ているよ」と教えてもらったんです。
同じJALグループですが会社は違うので、あらためて採用試験を受け直しました。そして2024年4月に、株式会社JALグランドサービス大阪に転職しました。

--- 「グランドハンドリング」というお仕事は、飛行機に一番近い仕事とも言われています。簡単にいうと、どんな仕事ですか。
グランドハンドリングは飛行機が到着してから出発するまでの間に行われる、地上支援業務全般のことです。その中でも私は到着した飛行機から、お客さまの手荷物や貨物を降ろして、次の出発に向けて新しい荷物を積み込んだり、機内クリーニング・チェックを行っています。
飛行機が到着してから次に出発するまでの時間は、だいたい35分から40分くらいです。その間に、荷物を降ろして、飛行機の中に何も残っていないかチェックして、貨物があれば貨物を先に積んで、それからお客さまの手荷物を積みます。
--- 日頃、どのくらいの量の手荷物を扱うのですか。
便によってかなり違います。地方便では、少ない時は10個、20個くらいのこともありますし、多くても60個くらいです。
一方で、羽田便や千歳便などは手荷物が多くなりやすいです。大きな機体では、30kgくらいの荷物を100個、200個と扱う日もあります。千歳便はお土産が多いこともありますし、成田便は海外のお客さまも多いので、手荷物が多くなることがあります。
地方便では、2人から3人のチームで1便を担当することもあります。飛行機が到着してから出発するまでの35分から40分ほどの間に、荷物を降ろして、機内を確認して、次の便の荷物を積み込みます。

--- 体力が必要なお仕事ですね。
そうですね、体力も必要ですが、それだけではありません。限られた時間の中で、どの順番で積むか、チームの中でどう動くか、次に何をするかを考えながら動きます。
バゲッジの総量を決めるのは、別のセクション。「絶対入るから、入れて!」って言われても、一見して、「うわぁ、これ入るかな?」というボリュームのときもあって、ドキドキです。すべての積み込みを終えられたとき、チームでの無駄のない連携と自分の技術がカチッとはまった瞬間には、「よし!」という格別な達成感があります。
飛行機が遅れたら担当便が変わることもありますし、その日の状況や天候によって動き方も変わります。何もなければ予定通り進みますが、遅れたらいろいろ変わります。

--- 働き方はどんな感じですか。
シフトは1か月単位で決まっていて、休みの日も毎週同じではありません。でも休みの希望は出せますし、確実に休みたい日は申請することもできます。
「早番」の日は、朝5時50分出社、14時40分までの勤務。実働8時間、休憩1時間です。「遅番」の日は、昼13時35分に出勤、22時25分退勤。飛行機が遅れた時は、残業できるか確認されることもあります。無理にというより、できるかどうかを確認して、チームの中で調整していく感じです。
伊丹は飛行機の発着数も多いですし、グラハンの部署だけで約150人が働いています。女性も増えてきました。
--- もともとはカウンター業務を目指されていましたが、今はグラハンをどう感じていますか。
私は明るい性格だと思うのですが、実は人見知りなんです。お客さまと直接接する仕事よりも、チームメンバーとコミュニケーションしながら進めるグラハンの方が向いていると感じるようになりました。
元々グラハンを目指していて、今はグランドスタッフをやっている兄にも「おまえにはグラハンが向いてる」と言われます(笑)。
--- 最初の希望とは違う仕事に進んだからこそ、気づいたことがあったのですね。
そうですね。最初から「グラハンが自分に合っている」と分かっていたわけではありません。今は、「グラハンでよかったな」と思っています。

--- 仕事を続ける中で、今の課題や目標はありますか。
はい。もっとできるようになりたいです。
私はマイペースなところがあるので、仕事中に「遅いよ」とか「話をちゃんと聞いて」と注意を受けることもあります。限られた時間の中で動く仕事なので、自分の動きが遅れると、周りにも影響してしまいます。まだまだだなと思うことは多いです。
でも、同じ部署に女性でバリバリ働いている先輩がいるんです。何を聞かれてもすぐに答えられるくらい知識があって、現場でもすごく頼りになります。見ていて、本当にかっこいいなと思います。
その先輩にいつ追いつけるのかなと思いますが、私もここでもっと経験を積んで、少しずつ近づいていきたいです。
--- 男性の多い職種というイメージがありますが、女性も増えてきているのですか?
伊丹空港でも、女性は少しずつ増えてきていると思います。私が入社した時の同期6人のうち、女性は2人でした。休憩室も男女それぞれにありますし、いろいろな環境も整ってきていると思います。
--- とてもキレイなネイルも、そのままでOKなんですね。
はい、大丈夫です。手袋を必ずしますから(笑)。
グラハンに必要な七つ道具としては、①iPad(仕事の情報がすべてここに集約される) ②無線機 ③ヘルメット ④手袋 ⑤蛍光ベスト ⑥耳栓 ⑦ヘッドフォン ですね。
退勤時にiPadと無線機を返却するルールになっています。
--- 仕事の中で大事にしていることや、喜びを教えてください。
仕事上、一番大切にしていることは「安全第一」です。飛行機のそばで手荷物を降ろしたり積んだり、機内を確認したりする仕事なので、ひとつひとつを確実に進めることを大事にしています。
そして、その延長線上でもあるんですが、飛行機の出発をお見送りすること。飛行機に向かって手を振ると、窓の中から、子どもたちが手を振り返してくれることがあります。とっても嬉しい瞬間ですね。

--- 航空業界を目指す人へ、伝えたいことはありますか。
最初に目指していた仕事と違っても、自分に合う仕事に出会えることがあると思います。
私も、最初はカウンター業務を目指していました。でも実際に働く中で、今はグラハンでよかったなと思っています。航空業界には、CAさんやパイロット、カウンター業務だけではなく、いろいろな仕事があります。
接客が得意じゃないから無理かも、第一志望に落ちたからもうだめかも、と決めつけずに、興味がある仕事についてまずは知ってみてほしいです。



(2026年6月取材)
(文:佐藤愛、写真:小林哲朗)
神戸市在住。ライター・プランナー・ディレクター。神戸新聞グループにてクリエーティブ企画・制作、雑誌編集、イベント企画、広告営業まで幅広い業務に従事し、2026年フリーランサーとして独立。新しいことにチャレンジするのが好きで、その視点から「スタートアップ企業」を支援するNPO法人生態会事務局メンバーとしても活動。趣味は旅、ゴルフ、映画鑑賞、美術鑑賞、伝統芸能(歌舞伎、狂言、落語)鑑賞。それに関連する情報発信が得意。
工場風景、市井の猫のいる風景、路地、廃墟、巨大建物など身近な異世界をテーマに撮影。
日本各地で講演や写真教室、撮影を行っている。
書籍は「ねこやん」「巨大工場探訪ガイド」など計11冊。
ニコンカレッジ講師。あまがさき文化観光アドバイザー。
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