スターフライヤー 山辺さん
スターフライヤーの事業活動における本拠地となっている北九州空港。北九州市小倉南区曽根からの移転に伴って2006年に海上空港として開港し、九州初の24時間空港として運用されています。
開港当初から、ドラマや映画のロケ地となって地元の話題を集め、地域のランドマークとしての一面も。
今回は、そんな北九州空港のグランドスタッフとして働く、スターフライヤーの山辺さんに、お仕事と職場について、あれこれとお話を伺いました。
--- グランドスタッフのお仕事について教えてください
飛行機の出発と到着時の、お客様の搭乗手続、ご案内、空港内アナウンス、手荷物のお預かりとご返却、高齢の方やお子様連れの方、補助が必要な方の移動時のお手伝いなどが、グランドスタッフのおもな業務です。
--- 一日で出発・到着をおこなう便数はどのぐらい?
北九州空港におけるスターフライヤーの国内定期便は日に22便。それに不定期のチャーター便および国際便が加わる場合もあります。当空港は24時間体制ですので、スタッフが早番、遅番の勤務ローテーションを組んで対応しています。
--- 山辺さんはスーパーバイザーという役職だそうですが、その業務もあるんですか?
現在、入社8年目で約3年前からスーパーバイザー(SV)を務めています。SVは旅客業務全般の責任者で、整備や運航を管理する部門と連携して、搭乗開始時刻、搭乗人員、手荷物個数、手荷物の搭載位置、ゲートクローズ時刻などを把握し、旅客機運航システムに記録する役割を担います。不測の事態が起これば、それに合わせた対応をスタッフに指示する立場となりますし、時には出発時刻の変更といった重要な判断を任されるケースもあります。それに、空港の運営に支障をきたさないよう、グランドスタッフの人員配置を調整するのも、SVの大事な業務のひとつです。
--- 大活躍ですね!そんなにあれもこれも担当して、慌てて入力ミスをしてしまう、なんてことはないんですか?
お客様の安全のために、それは絶対に許されないことなので。ですから、システムへの入力の際は、指差し確認を必ずおこなってミスを防いでいます。
--- 空港で働く方は、あらゆる現場での指差し確認が基本動作になっているため、私生活でもつい出てしまうと聞きますが。
私の場合、指差し確認はないのですが、ボールペンを使った後に胸ポケットにしまう動作や腕時計の時刻を確認する動作は、お休みの日のふとした時に出てしまいますね(笑)
--- 飛行機の発着は、悪天候や自然災害、予期せぬトラブルの影響を受けやすいものなので、そういう場面での対応は苦労もあるでしょう。
お客様の搭乗便の変更やキャンセルといった手続きが増えるため、普段より慌ただしくなります。アナウンスにしても、内容によってはお客様の不安な気持ちや苛立たしい気分を掻き立ててしまいかねないので、よりいっそう気を遣うところはあります。
--- お客様のなかには「責任者と話をしたい!」と言う方もいるのでは?
そうですね。私は旅客業務の責任者ですから、直接対応するケースは、たまにあります。ただ、こんな言い方をするとおかしいかもしれませんが、私はそういう状況は嫌ではないんですよ。お客様の疑問や不満に対して誠意をもってご説明し、時にはしっかりとご意見に耳を傾けて、ご納得いただけると、達成感に似た感覚を味わえるからです。グランドスタッフとしての成長を実感できるというか。なかには、「さっきは強く言いすぎてしまった。ごめんなさい」と、話してくださるお客様もおられます。以前には、お客様の気持ちが収まらないまま、結果的に私自身も落ち込んでしまう経験もしましたが、空港での時間をお客様にできるだけ気持ちよく過ごしていただけるのなら、不測の状況には進んで対応させていただきたいと思っています。
--- すごい!とてもポジティブですね。
どちらかというと、性格的にはネガティブなほうかもしれません。新人のころはとくに、自らの能力に自信がもてなかったり不安を感じたりで、そういう気持ちを何とか隠そうと、とりあえず笑みを浮かべる態度を心がけていました。でも、それは経験豊かな先輩方には、あっという間にばれてしまうんですね。「笑顔が、へらへらしている感じになっているよ」と。ただ、不安や心配は、今の状況に満足しない原動力にもなるので、お客様のために役に立てるよう頑張ろう、と思い続けられたのかもしれません。
--- 職場の人たちとはどんな関係ですか?
どんな状況でも力を出し合い、ともに乗り切ってきた分、仲はとてもいいです。これは、本当に自慢できます!先輩、後輩関係なく率直に話せて何でも相談しやすい雰囲気で、ちょっとだけ愚痴りたい気分の時なんかにも「ありえないですよね!」と、すぐに共感してもらえるから、居心地がよいですね。仲がよすぎて、休みの日を合わせて一緒に旅行に出かけるのも、しょっちゅうです。この仕事に就けて、この職場で働けて、心からよかったと、ずっと感じています。
--- そもそもこの仕事に就いた理由、きっかけは?
中学生の時に、家族との旅行で初めて飛行機に乗りました。その時に空港の搭乗口近くのカウンターで見かけたグランドスタッフの人たちが、とても輝いて見えたんです。きちんとまとめた髪、きりっとした制服姿。何よりも、広い空港を舞台に、活き活きと、笑顔を絶やさずに役割を果たす様子、立ち居振る舞いがすべてかっこよくて。私も、あんなふうに働く人になりたいと。
--- パイロットやCAにくらべると、グランドスタッフの仕事は、中学生にはなじみがそれほどない分、どのように目指せばいいのかわからないといったことはなかった?
作家の村上龍さんが書いた『13歳のハローワーク』という、世の中の職種についての百科事典みたいな本を読んだら、グランドスタッフも載っていたんです。そこからは、迷わずグランドスタッフ志望で、高校卒業後に航空関係の専門学校に進学。グランドスタッフコースでは、同じ夢をもった学生たちとたくさん知り合えて、毎日が楽しかったですね。
--- それで、中学時代からの念願がかなって、この仕事に就けたわけですね。
ええ。だから、多少しんどいことがあっても、この仕事で得られる歓びのほうが、ずっと大きいです。自分がどのような対応をしたのか忘れているお客様から「往きの便で、とてもよくしてもらえたから」と、おみやげをいただいたり、車いすのお客様の移動のお手伝いをした時に「ありがとう!またここへ来たい」と、手を取って感激されたり。さまざまな出会いが、日々の成長と充実感につながっています。
--- 将来もグランドスタッフとして働いていたいですか?
もちろんです。私たちグランドスタッフの印象は、お客様にとって、空港や街そのものの印象に関わるものだと思います。それだけに責任もやりがいもあります。体力的な限界はあるでしょうが、できるかぎり長く、空港の最前線でお客様に寄り添って、お役に立てる仕事を全うしたいです。
進学校の高校に通っていた山辺さん。同級生のほとんどが大学進学を考える環境で、先生からも大学受験を強く勧められたとか。それでも、夢へ向かってまっしぐら。その夢を応援し支え続けてくれた親の話になると、彼女は涙ぐみながら語ってくれました。最後は「大好きな仕事をさせてもらっている私は、幸せ者」と、きっぱり。中学生で志した仕事に就いて、誇りをもって働き、自らを「幸せ者」と言い切れる人がどれだけいるでしょう。大勢のお客さんと同じく、あなたに会えてよかった。元気と勇気をもらえた気がします。ありがとう!
(文:堀 雅俊、写真:梅本昌裕)
東京での編集プロダクション勤務とフリーライター経験を経て、2015年に出身地である北九州へ活動の拠点を移す。二十数年にわたって人物取材を数多く手がけ、文化人、芸能人、企業トップ、研究者、専門職スタッフなどを対象とした取材記事およびコラムを幅広いジャンルの媒体に寄稿。北九州ライターズネットワーク会員。https://www.facebook.com/writerznetwork/