ANA成田エアポートサービス株式会社
オペレーションマネジメント部
ハンドリングコントローラー/FMO(フライトマネジメントオフィサー)
松本 優さん
今回お話を伺ったのは、ANA成田エアポートサービス株式会社(NRTAS)の松本優さん。現在、オペレーションサポート業務を担当していますが、これまでの経歴は、社内でも珍しいと言われるほど多彩です。
旅客サービス、グランドハンドリング(グラハン)、成田市役所への出向、ベトナムのハノイ国際空港での勤務と、幅広い経験を積んできました。多くのキャリアを経て得た経験や、現在の成田国際空港での仕事について伺いました。
--- 航空業界を志した理由は何だったのですか。
学生時代から海外旅行が好きだったことが大きいかもしれません。空港のチェックインカウンターのスタッフを見るたびに、「自分が航空業界で働いたら、こういう仕事をするんだろうな」というイメージが自然と浮かんでいました。飛行機そのものというよりも、「海外と接する仕事」に魅力を感じていましたね。
--- だから羽田空港ではなく、国際線のある成田空港での仕事を選んだのですね。
成田空港を選んだのは、「国際線」の業務に就きたかったからです。それと、勤務時間も大きいですね。当時(2010年4月入社)の羽田空港はまだ国内線がメインでしたが、その後は国際線が本格化して24時間稼働する空港になることが分かっていたので、「正直、24時間はしんどいな」と思っていました(苦笑)。
成田空港は国際線が多く、24時間の運用ではないという点も成田空港を選んだ理由のひとつです。ANAの旅客便は21時半まで、貨物便は23時半ぐらいまでなので。
--- 現在のオペレーションサポート業務の仕事を教えてください。司令塔のような業務だと思いますが、難しさや、やりがいはどんなところですか。
飛行機の出発までに、機内清掃やケータリング作業、機体の整備状況などが時間通りに進んでいるかを確認・把握します。もし遅れていれば、関係部署に進捗状況を確認し、出発時間や搭乗時間を調整することが、私たちの仕事です。オフィスでは1日4名体制で対応しています。
その他に、現場に行かないと分からないこともあるので、遅延が見込まれる便があれば、機側で実際に作業を見ながら工程の管理をすることもあります。オフィスにずっといる日もあれば、機側にいく担当の日もあります。秒単位まで細かく工程を把握し、現場から関係部署と直接連絡を取っています。
機側に行く担当の日は、1日に1、2便は機側まで見に行きますね。遅延が見込まれる便がないときは、搭乗するお客さま数の多い便のところへ行って、搭乗時間を長く確保するために早めの準備を進めるよう依頼したりします。とにかく全体を把握し、スムーズに進むように調整するために動く仕事です。
シフトは、大きく分けて早番、中番、遅番の3つがあり、週4勤の2休が基本ですね。土日に出勤することももちろんあります。
(秒単位での対応に追われる中だからこそ、冷静に淡々と仕事を進めているそう)
--- 生活リズムはわりと不規則なんですね。体調管理が大変ではないですか。
入社して10年くらい、ずっとシフト勤務だったので慣れました(笑)。
--- オペレーションサポート業務という仕事は、即時にいろいろな判断を迫られるシーンも多そうですね。
便に遅れが出ているときや、整備作業が発生したときは、どれくらい時間が掛かるのか、定刻で出られるのか、出られないのか、などを計算して判断していきます。
全体の作業の中で、時間を詰められるところがあるか、その時間を使えば巻き返せそうなのか。それともやっぱり便の出発時間を遅らせないと無理なのか。
他の機材と入れ替えるということもあります。「この便と、この便をこう変えれば、時間変更なくいけるよね」みたいな感じで。でも自分だけの判断ではなく、旅客担当や整備士、ケータリングの担当とも連絡を取りながら決めていきます。
--- そうした判断は経験値が大事ですね。
飛行機の機体そのものを変える場合は、代わりの飛行機を使う許可などを含めて上のポジションの方に相談して確認を取ります。ただし「どうすればいいか」という話ではなく、事前に何パターンか代替案を考えて提案するようにしています。いずれも突発的なことなので、その場でどうするかスピード感を持ってジャッジしています。
それに、自分の担当する「持ち便」はその1便だけではないので、片方のトラブル対応も進めながら他の便のオペレーションサポート業務もやっています。
だいたい「何か」が起きている時は、その部署のあたりが騒がしくなるんですよ。だから私は常に耳を“ダンボ”にしています(笑)。聞き耳を立てて情報を取るんです。
無線はさまざまな情報が飛び交っているので、「ワーッ」と雑音のようになっていますが、そこから自分に必要かつ関係のある情報だけを聞き取っています。ぼーっと聞いていたら重要な情報を聞き逃してしまうので。
特に“ダンボ”になるのは、整備士さんの無線ですね。イレギュラーが起きた時などは、最終的には手順を踏んで正式に連絡が来るのですが、無線を通じて早く情報を得ておくことで、こちらの準備時間や、万が一ダメな時はこうしよう!といった考える時間が取れます。
(多くの情報が行き交う無線の音声に、”ダンボ”耳になって情報をキャッチ)
--- ちなみに、何事もなく終わることって、あるのですか。
残念ながら、ほとんどないですね!(笑)。
--- オペレーションサポート業務をおこなう部署に配属される前に、国際線のチェックインやゲート業務を中心に旅客サービス部のグランドスタッフを6年間経験されたそうですね。
グランドスタッフの仕事では、海外航空会社や国内線の経験も積んだことで、ほぼすべてのポジションを経験し、ある程度やりきった感がありました。
その次に、貨物や手荷物を搭降載するグランドサービス部(グラハン)に配属されたのですが、視野を広げるために、違う業務をやりたいとは思っていました。でも、グラハンへの異動希望は出していなかったんです。だから、この異動は私の性格やキャラクターも考慮してのことかもしれません(笑)。
というのも、当時、旅客サービス部からグランドサービス部に異動した女性はいなかったからなんです。グラハンは男性が多く、体力勝負なところもありますし、1年中、屋外の仕事です。体力面はもちろん、男性が多い中で業務を行う必要があります。確かに学生時代は、陸上、水泳、モダンバレエを習うなど、体力には自信がありましたが…。
新入社員として入った当初からではなく、30歳になってからの異動だったので体力的には少しきつい部署だったかもしれません。小型機の貨物室にカバン200個を手で運んで載せたりするんですが、膝立ちで作業をするので膝があざだらけになりました(苦笑)。
ただ、屋外で働くのはキツかったけれど、グラハンを通じて1便を無事に飛ばすという全体の流れが分かったことは、この仕事の醍醐味だったと思います!
(旅客、グラハン、オペレーション業務のほか、成田市役所での仕事も経験)
--- 続いて成田市役所に1年間出向されて、会社に戻って総務部で1年。
さらにベトナムのハノイ空港には1年間駐在されたとのこと。社内で他にそんなに多彩な経験を積まれた方はいないのではないでしょうか。
はい、他にはなかなかいないと思います。グラハンの後、本当は2020年にアメリカのシカゴ空港に実務研修でスーパーバイザー(責任者)として行くことが決まっていたのですが、コロナ禍で延期となり、7月には正式に中止が決定しました。そんなとき、成田市の広報課の出向のお話がありました。
--- 出向した成田市役所では広報誌のお仕事をされていたと聞きました。
編集業務が主でしたが、取材をしたり原稿も書きました。とてもいい経験でした。そのあと、自社に戻り、総務部でも仕事をしたのですが、会社の中では一番、成田市との関係性の深い部署でしたので、成田市役所での経験を活かすことができたうえ、成田市とのつながりも強くなったと感じました。
--- そして次はハノイ空港の勤務ですね。ハノイでは空港所長を補佐するアシスタントマネージャーをされたとか。
ハノイ空港の仕事は、コロナ禍前に行くはずだったシカゴ空港と同様に、実務研修ということで行きました。2023年です。ハノイ空港は日本ほど時間に厳格ではないので、日本とのギャップに戸惑いました。
また、チェックイン業務もグラハン業務も現地の業務委託先にお願いしていたので、ANAと同じマインドを持ってもらうのは大変でした。私としてはANAと同じ温度感で接客してもらいたい。けれど、海外の空港でどこまで同じ品質を求めたらいいのか。現地のお客さまも、正直日本ほどのサービスなどをそこまで求めていなかったりするので、バランスを取るのが難しかったですね。
--- 多くの現場や違う職場を経験されて、人脈もできたのではないですか?
はい。自分にとって人脈は財産だと思っています。周りの人との人間付き合いもそうです。仕事を進める上で、どれだけ知ってる人が周りにいるのかで全然仕事のやりやすさは違ってくると思います。いろいろな部署を経験させていただいたことで、いろんな部署に知ってる方ができ、会社生活もより楽しくなりましたね。仕事をやりやすくする環境は自分で作っていかないと!
(仕事を楽しく、スムーズに進めるのは仲間の力があってこそ)
--- 将来は空港オペレーションの最高責任者であるエアポート・マネジメント・ディレクター(AMD)の補佐として運航方針を策定する、エアポート・マネジメント・オフィサー(AMO)を目指しているとのことですが。
はい、そのために、本社も含めて、ダイヤ(編成)や機材繰りのことも学んでいきたいと思っています。AMOを目指すうえでは、自分の空港のことだけではなく、その先の現地での折り返し時間を考えたり、先を見越して判断したりといった視点を持つ必要があります。
今後は、成田空港だけでなく、もっと忙しい海外の空港での仕事も経験してみたいですね。実はハノイ空港は1日1便しかなく、日本人のお客さまもそこまで多くなかったんです。ビジネス需要もそれほど高くなく、イレギュラーな動きもあまりありませんでした。
一方で、シカゴ空港であれば冬は雪で大変でしょうし、乗り継ぎの需要も多い。少しでも遅れたら乗り継ぎがうまくいかない方が出るような状況下だと思うので、やりがいはあるように思うんです。ハードな現場も体験して、さらにステップアップしていきたいです。
--- 航空業界において、旅客サービスとグラハンの両方を経験した人はあまりいないと思います。さらに松本さんは、社内でも珍しいくらい多くの部署を経験されています。将来は管理職になる可能性もあるかと思いますが、今、仕事で心がけていることは何ですか。
そうですね…「全体最適」ですかね。どこかの部署にとっては非常にいい策でも、どこかの部署にとっては困ったり、難しい策であっては最適解とはいえない。もっと組織全体の「最適」を考えないといけないなと思います。一部を尖らせることで、他のどこかが不利益を被らなければならない場合でも、しっかり納得してもらえる根拠を示し、理由があるからこういった判断をしましたと、理由をきちんとと言えるようになりたいです。
--- 憎まれ役になることもありそうですね…。
その時は、しょうがないですよね(笑)。
(電卓は時間計算をするときの必需品。時間計算機能が付いているそう)
--- 航空業界を目指す人たちにアドバイスをお願いします。
私はこの業界に入るとき、空港の表側で働いている人たちのことしか知りませんでした。ところが、実際に入ってみたことで、目に見えていない場所で業務に当たっている人の方が多いことを知りました。
私が経験した、オペレーションマネジメント部のような業務もそうです。また、表側で働く人たちも、見えないところで行っている仕事があり、その業務の多さには驚かされました。自分が想像しているよりも、いろんな部署と仕事があるのが、この航空業界だと思います。
--- パイロットやCAだけじゃないのですよね。
表からはあまり見えない部署にも興味を持ってもらい、少しでも調べてもらえたらうれしいですね。調べてもらうことで、入社した時のギャップも少なくなり、「こんなはずじゃなかった」という想いが減ると思います。
航空業界は華やかで楽しそうといった部分がフューチャーされてしまいがちですが、知らない部分が出てきてギャップを感じてしまう人もいると思うので、ぜひ、いろいろ調べてもらいたいですね。
--- ずばり、成田空港の魅力は何でしょうか。
成田空港は2030年代以降の更なる機能強化を発表しており、その実現に向けて、現在ある第1、第2、第3ターミナルをなくして、大きなワンターミナルにする予定です。常に変化をしていて、さらに未来があると思うとワクワクします。
今、2024年の夏に発足した、社内の「新しい成田空港構想語り場プロジェクト」のメンバーとして、将来の成田空港のあり方を議論しています。 各部門から、ワンターミナル化をする際にはこのような施設を入れてほしい、こういったシステムを導入してほしい、といった声や提案を集め、まとめているところです。
(これからますます変化し、大きく成長する成田空港にワクワクしています)
ゼロベースから空港を考えられる機会はなかなかないので、すごくやりがいを感じています。既成概念や実現性にとらわれず、これまでなら絶対に無理だと言われてきた夢物語のようなことも提案してみたいと思っています。こうしたプロジェクトに参加できるのも、いろいろな部署を経験したからかもしれません。
(2025年1月取材)
(文:小島昇、写真:大橋政昭)
フリーランス記者・編集者。東洋経済新報社「会社四季報」センター記者として上場企業を取材。インプレス「Web担当者Forum」でサイト担当者向けニュースを、アスキー「ASCII STARTUP」でスタートアップ界隈の話題を執筆。毎日新聞社の経済部記者として電機メーカーや通信業界、東京証券取引所、総務・経産・国交省など取材。ニュースサイトの編集・編成業務10年を経て2019年9月退社し独立。
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1964年生まれ。千葉県習志野市在住副業カメラマンからスタートして、2019年に独立。スクールフォト、キッズ・ファミリーフォトを多く手掛ける子供好きカメラマン。その他各種スポーツイベント、プロフィール、ビジネスサイト向け等、幅広く活動中。。
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