株式会社ANAケータリングサービス
清水 直哉さん
吉田 奈央さん
(写真左から清水さん、吉田さん)
仕事やレジャーなどで飛行機に乗るとき、機内での楽しみといえば映画などのエンタメと、機内食やドリンクなどのサービス。ANAグループの国内線・国際線の機内食製造・搭載や機内サービス用品の搭載などを担っているのが株式会社ANAケータリングサービスです。
機内食やドリンクだけでなく、新聞や雑誌、さらには機内販売やお子さま向けのおもちゃまで幅広いアイテムを取り扱っています。空の旅を楽しく快適にするためのサポートをしている、ANAケータリングサービスの仕事について、川崎工場 国際線オペレーション部の清水直哉(しみずなおや)さんと、本社客室サービス部サービスオペレーション課の吉田奈央(よしだなお)さんのお二人にお話を伺いました。
清水さんは入社11年目で、羽田空港から出発する国際線向けの備品の準備、搭載を行う部署で現場を率いる「スーパーバイザー」として勤務しています。また、吉田さんは入社4年目。成田空港での国際線のオペレーションを経験した上で、現在は機内食や備品の搭載計画を立てる部署で活躍しています。
--- まずはお二人の業務内容について教えてもらえますか?
清水:旅客機には、機内食や飲み物、おもちゃなど、いろいろなものを積んでいます。それらを用意して飛行機に積み込むのがANAケータリングサービスの主な仕事です。私の部署は「搭載」を担当しています。
機内食や備品は別の部署が準備しているので、足りていないものがないか、機内食の温度は規定通りか、などをチェックしてトラックに積み込み、さらに空港まで運んで機内に積み込むのが仕事です。
私の部署では、スタッフが1日30人ほど稼働しています。空港までの搬送を行うドライバーと、工場と空港それぞれで積み込みを行うコーディネーターに分かれていて、担当作業を行うという形です。ドライバーは大体1日に2往復ほど。コーディネーターは一人で1日5、6便の積み込みを担当しています。
(冷蔵室で行き先ごとにまとめられた機内食)
吉田:私が在籍している本社客室サービス部 は飛行機に積む機内食の企画や、機体・サービスに合わせて何をどれだけ積むのかを決めてマニュアルを作る部署です。私は中国、東南アジアなどの近距離国際線を担当しています。
清水さんたちが行っている「搭載」や機内食を作る「調理」、別会社ですが機内清掃をおこなう「クリーナー」のマニュアルづくりや、さらに各部署との調整を行って、オペレーション全体を統括しています。
--- お二人は普段の業務でやり取りはするのでしょうか?
清水:直接的にはあまりないですね。吉田さんたちが作ったマニュアルを元に業務を進めますが、マニュアル自体は別の部署を経由して手元に届きます。イレギュラーでマニュアル通りに備品を搭載できなかったケースなどがあった場合は、吉田さんたちではなく、それを客室乗務員(CA)に伝達してそちら側から報告のレポートをあげてもらっています。
吉田:マニュアルを作るときに機内の搭載スペースを確認することがあるのですが、以前は比較的気軽に自分で直接機内まで見に行っていました。でも、コロナ禍になり今はなかなか気軽に行くことができないので、オペレーションの方にお願いしてサイズを調べてもらったり、このコップ入りますか?と相談することもありますね。
--- 清水さんの1日の業務の流れを教えてもらえますか?
清水:私たちはシフト制なので早番の時は、最も早い時間だと朝4時に出勤します。その場合は会社で手配しているタクシーが早番の人たちをピックアップして相乗りで会社に向かいます。出勤したらまず最初に担当便をチェック。コーディネーター(便の責任者)の場合は用意されている機内食や備品をチェックしてトラックに搭載して、機体に積み込みます。今は現場を管理する立場にいるので、担当便を持たずにイレギュラーなトラブルが発生したときの対応を行うことが多いですね。
(機内へカートを搭載。写真右は機内のギャレーへ運び入れている様子)
--- どういうトラブルが発生するのでしょうか?
清水:飛行機に不具合が起きて、使用する機材が変わるというのが一番多いイレギュラーです。機材変更の連絡がきた時間帯にもよりますが、積み込んだあとに整備側からNGが出て、機材が変更されることもあって、その場合は積んだものを下ろして新しい機材に積み直しを行います。ただ、代替機が小さかったりすると乗らないこともあるので、そういう場合は工場で機体に合わせたカートにセッティングし直しになります。
無理矢理に積み込むことはできません。万が一、空の上でお客さまへのサービスに支障が出たら意味がありませんから。
この準備と入れ替え作業だけで2時間位かかることもあります。ただ、飛行機の出発時間は変えられないことが多いので、そういうときは担当部署のスタッフが総出で「頑張る!」という感じです。
--- 吉田さんの業務内容と1日の流れを教えてもらえますか?
吉田:今はリモートワークをしているので、業務を9時にスタートして、午前中はメール対応、午後はCAや運航乗務員がいる職場のスタッフ部門、企画部門や海外出発便の機内食などを作ってくれている海外のケータラー(ケータリング業務をする会社、人の呼称)など、各部署との会議が入ることが多いですね。
新たなサービスのためにどんなお皿を乗せる必要があるのか、どんな飲料がいるのかといった打ち合わせをしています。さらに関連部門との調整やトラブル対応もあります。
--- どういうトラブルが発生するのでしょうか?
吉田:清水さんたちのような突発的なトラブルはあまりないのですが、最近は、新型コロナウイルス感染症にまつわる対応が増えています。例えば、空港の検疫が厳しくなって、海外の空港で機内食を積めないといったことが発生します。帰国便でお客さまに提供するお食事がなくなってしまうので一大事です。そのため、その空港への出発便に機内食を2倍(往復分)搭載できるように手配をする必要が出てきます。
そういう場合は、急いで材料の調整を行い、マニュアルを作って対応しています。コロナ禍になって数ヶ月に1回ほどはそういう連絡が海外から来ることがありますね。
清水:メールなどで状況は知っていたのですが、そういった調整後に、マニュアルまで全てそろった状態で手元に来るので、私たちはそこの苦労をあまり知らなくて。吉田さんたちがそういった対応までしてくれているんだなと、今日改めて実感しました。
--- 往復の食事や備品を飛行機にすべて積めるのですか?
吉田:本来ならあまりないのですが、頑張ってスペースを作り出しますね(笑)。今はお客さまの数に合わせて、備品の数を調整していますから。
清水:私たちも、吉田さんたちが作ったマニュアルを見て、「あ、こんなところに積むんだ(笑)」と思うときがありますよ。
--- それぞれの仕事について、面白いところや大変なところを教えてもらえますか?
清水:面白さでいうと、イレギュラーがあった時、現場のみんながアドレナリンを出して燃えている雰囲気は好きですね。もちろん、イレギュラーは起きないほうがいいわけですが、そんなときに部署を超えて全員で協力して、無事に飛行機を飛ばせると達成感がありますね。
吉田:私もイレギュラー対応に面白さを感じることが。イレギュラーで普段よりモノを多く積まなければいけないときに、「決められたスペースの中でいかに積むか」という、パズルをしているような感覚があるんです。いろんな部署から「これを載せてほしい」という依頼が来るのですが、それらを全部きれいに組み立てられたときは、すごく楽しいですね。
(機内に搭載する備品は、一つ一つ綿密にチェックされる)
吉田:他にも、CAから“無事に飛びました”とか、“無事にこういうサービスができました”という報告を受け取ったときも達成感がありますね。
ただ一方で、想定していた数のアイテムを無事に積んだとしても、その便ではお酒の注文が多かったとか、ジュースの注文が多かったとかで、上空で数が足りなくなることもあるんです。スペースも限られていて、余分にはあまり積み込めないので。だから、いつも次の便に向けて日々調整しています。
清水:個人的な失敗談としては、国内線を担当していた頃に、1日200便中4便にしか載せない英字新聞を載せ忘れたことがあります。他の備品は別の部署が揃えてくれるのでそれをチェックするのですが、その新聞だけは私の部署に直接納品され、個人でピックアップしてくる仕組みだったので。
そのとき、課内の作業品質を向上させる役割を担当していたこともあり、上司から厳しく叱られて思わず泣いてしまいました。それ以来、どんなに急いでいるときでも一度立ち止まって振り返ってしっかり確認をするようになりました。
吉田:それは、大変でしたね。私が一番ヒヤッとしたのは昨年、ウラジオストク線をANAで初就航したときです。ロシアへ出張をして、初就航の前日に現地のシェフに機内食を作ってもらったところ、全く違うメニューが出てきてしまって(笑)。機内食を決めるときは、何パターンかケータラーに提案をしてもらうのですが、その中の別のメニューだったようで。そこから急いで材料を調達してもらいました。無事予定通りのメニューを出すことができましたが、海外とのやり取りは言語の壁もあって難しいと感じましたね。もちろん日本での業務の際もそうですが、周りとのコミュニケーションの大切さを改めて実感しました。
(トラックの荷台は工場の2階と連結できるため、そこからカートを運び入れる)
--- コロナ禍での対応について教えてください。
吉田:現在はお客さまの数が少ない便も多く、搭載する備品の量は減っています。その代わりに除菌シートや、マスクなどを積むようになりました。今まで積んでいたものの量を少し減らして、そのスペースに今のコロナ対策で必要なものを積むマニュアルになっています。
また、コロナ関連で多いのは先程お話ししたような、海外からの帰国便で機内食が積み込めなくなるといったイレギュラーの対応ですね。それが出発3日前に判明したことがあって、そのときは急いでマニュアルを作ったり、いろいろな部署へ調整をかけたりしました。中国路線で生野菜を載せることができなくなって機内食のメニューを変更した、なんてこともありました。
清水:「食の安全」という点に関しては、もともと徹底して管理を行っているので、コロナ禍で何かが変わったということはないですね。
--- オリパラの対応もされているんですよね。
清水:弊社から8人ほど、ボランティアに選出されています。でもそれぐらいなのかな?直接的に関わることはあまりないかもしれません。
吉田:あ、私の職場では、一つあります(笑)。開催期間中、ご希望のお客さまにお配りするおもちゃが、特別仕様のオリパラデザインになります。その時期だけ、特別にそのおもちゃを機内に積みます。
(お子さまにお配りしているオリパラ仕様のおもちゃ)
--- 航空業界には様々なお仕事があり、会社があります。そんな中でお二人がANAケータリングサービスを選んだ理由を教えて下さい。
清水:私には3つ年上の兄がいて、私が中学生の頃に兄が専門学校の入学案内を集めていたんです。その中に、たまたま航空関係の専門学校があって、パラパラとめくっていて興味を持ったのがきっかけです。高校を卒業したあと、北海道の千歳市にある日本航空専門学校に2年通いました。
航空業界の中で弊社を選んだのは、食べることが好きだから。学生時代に中華料理屋でアルバイトをしていたくらいです(笑)。「好きな航空業界と食が合わさる感じが良いな」と思って選びました。他の会社は考えなかったですね。
吉田:航空業界は大学での就職活動で見ていた業界のうちの一つで、早くから強く目指していたというわけではありませんでした。でも、大学時代に2年くらい休学して色々な国へ行ったくらい海外旅行が大好きで。日本を出るときは、ほぼ必ず飛行機に乗るので、インフラとしての航空業界に魅力を感じていました。空港の地上スタッフやCAなどの、ホスピタリティや温かみがある感じが他の交通機関とは違ってすごく面白いなと思っていました。そしてフライト中で楽しいのはエンタメ(映画)と機内食ですよね。清水さんと同じですが、やはり「食」に携われるのが魅力でした。
また、大学生のときの就職活動で訪れた企業説明会で、当時の人事担当者が「航空業界の中でモノを生み出すことができる会社、ゼロから何か新しいモノを作り出せる会社」と言っていたのが印象的でした。例えば機内食のメニュー開発や、機内サービスですね。そういうことができるというのも、志望した理由です。
--- 実際に入社してみていかがでしょうか。
清水:入社してみたら、実際に機内食を作っているのは調理系の学校を卒業した人たちで、「あ、自分は機内食を作れないんだ!」とがっかりしました(笑)。そこはちゃんと調べてなかった私が悪いんですが。
ただ、全く関わりがないわけではなく、開発話を聞いたりできますし、社風も合っているので、後悔はないですね。
吉田:入社するまでエコノミークラスの食事しか食べたことがなかったんですが、ビジネスクラスやファーストクラスの食事を実際に見たり、研修のときには試食する機会があって、フルコースを人生で初めて見たり食べたりしたんですが、「空の上でもレストランみたいな食事を提供できるんだ!」と感じましたね。今でも、こんなすごい料理に関われるのは嬉しいなと思っています。
--- 上司や同僚の方との関係はいかがですか?
清水:私の部署はいわゆる体育会系とまでいいませんが、そういったノリの人が多いですね。150人くらいいて、その中で6つの班に分かれていて、コロナ禍以前は50人以上で飲み会もよくしていました。夜勤明けシフトのメンバーで飲みにいくことも多かったですね。
また、釣りが趣味で、先輩や後輩と一緒に釣りに行ったら、同じ船に弊社の前社長が乗っていた、なんてこともありました(笑)。得意なのは魚をさばくこと。1匹さばいて、丸々1人で食べることもあります。
吉田:私も成田空港のオペレーション部門にいたときは、今の清水さんのお話と雰囲気はすごく似ていました。一緒にゴルフに行ったりバーベキューをしたりしていましたね。私も料理に興味があるので、清水さんに魚のさばき方を習いたいと思います(笑)
今は勤務地が羽田空港ですが、いまだに成田で一緒に働いていたメンバーとオンラインご飯会をしたりしています。上司ともざっくばらんに話せる、風通しがすごくいい会社だと思います。
長時間のフライトの楽しみの一つである機内食の企画から調理・製造、そして、それらの機内への積み込みを行うANAケータリングサービス。その仕事は非常に広範囲です。だからこそ仕事に面白い達成感があると二人は語ります。
毎日、大量の備品をイレギュラーに対応しながら機内に積み込み、CAに引き継いでいく「搭載」の仕事。そして、飛行機に合わせて、搭載する機内食や備品を決めて、マニュアルを作って各部署を統括・支援するサービスオペレーションの仕事。どちらも飛行機の円滑な運航と機内サービス、そして、快適なフライトのためには欠かせない仕事なのです。
(文:コヤマタカヒロ、2021年6月取材)
1973年生まれ。大学在学中にライターデビュー。現在はデジタルガジェットや白物家電を専門分野として執筆活動を展開。同時にスタートアップ経営者などのインタビューなども手がける。AllAboutガイドや、企業のコンサルティングなども行う。家電のテストと撮影のための空間「コヤマキッチン」も用意。