中部スカイサポート株式会社ランプ貨物部 古賀さん
グランドハンドリング、通称「グラハン」。飛行機の安全な運航を支える上で、欠かせない存在です。その業務は、飛行機の移動支援、手荷物・貨物の積み降ろし、機内で使用する物品の交換・補充など多岐にわたります。
今回は、中部国際空港(愛称 セントレア)で働く、中部スカイサポート株式会社ランプ貨物部の古賀さんに、この仕事の魅力を伺いました。
--- 何がきっかけでグラハンを目指すことになったのでしょうか?
中学2年生のとき、修学旅行で北海道へ行ったんです。そのとき雪の影響で飛行機が遅れていて、窓の外を眺めていたら、女性がマーシャリング(※1)をしていました。それを見て、「自分が誘導した方向に、あんなに大きな飛行機が進んでくるなんて……なんてカッコイイんだ!自分もやりたい!」と一目惚れしたのがきっかけです。
北海道で「グラハンの仕事」に一目惚れするまでは、なんとなく「どこかに就職できればいいかな」という考えしかありませんでしたね。高校卒業後は、両親に頼み込んで航空系の専門学校に進学し、就職することができました。
※1マーシャリング…到着便のパイロットにパドルで合図を送りながら、飛行機を停止線まで導く仕事。グラハン業務の1つですが、古賀さんの働く中部国際空港ではマーシャリングを必要としないシステムを採用しています。
--- 現在はどのようなお仕事を担当されていますか?
主に、飛行機への手荷物や貨物の積み降ろしを担当しています。
午前中は出発便が多いので、荷物を積み込んで飛行機を送り出す、の繰り返しです。飛行機を安全に運航させるために、荷物の偏りがないように積み込んでいます。お昼ぐらいからは、それと逆の作業が増えますね。到着便を迎えて、そこに積まれている荷物をおろします。
--- 体力的につらそうですが……、荷物は重たいものもありますよね?
正直言ってツライですね(笑)夏は暑いし、冬は本当に寒いです。セントレアは風が強いので、冬場に吹く風は本当に冷たくて。夏は耳まで日焼けしてしまうほど路面の照り返しが強くて、猛暑になります。
荷物の重さは、特に荷物の多い中国路線だと30kgぐらいのものもあります。腕力だけでは持ち上がらないし、持ち上げようとすると腰痛になってしまうので、膝や全身を使って持ち上げます。
とにかく毎日が体力勝負なので、ご飯をしっかり食べてよく寝ることが重要なんです。どんなに疲れて、ご飯が喉を通らなくても、無理矢理にでも押し込んで食べるくらいの気合いでやってますね。
そうしてやっていくうちに、仕事に必要な体力も自然とつくもので、私は今年で9年目に入ります。特別に運動をしなくても、仕事をすればダイエットにもなるので、一石二鳥……それどころかお給料ももらえるので、一石三鳥ぐらいだと思っています(笑)
--- ルーティンワークのようなイメージがありますが、日々の仕事に何か変化はありますか?
同じようでいて、日々違います。毎日発着する飛行機は同じですが、状況や内容が違ってきます。同じ便名であっても、いつもは荷物が少ないのに、ある日急に増えることもあります。
お預かりした荷物も適当に詰め込んでいるのではなく、パズルのように積み込んで行くんですよ。
入社当時は「そこじゃない!こっちこっち」と言われてしまうこともありましたが、経験を重ねるうちに、感覚で積めるようになってきます。最初はとにかく、「積んで積んで積みまくるしかないから」なんてことも言われてましたね(笑)
--- 最初は先輩や上司に怒られてしまうこともありましたか?
最初は怒られてばかりでした。
グラハンは、出発便の作業をしている間でも、次の到着便のことも考えて動かないといけません。飛行機を定時通りに出発させるのが私達の仕事なので、時間までに積み込むことはもちろん、次の到着便に向けての時間配分や人員の配置を考えて動く必要があるんです。
そんな中、「お前は時計を見られないのか!」と言われてしまったこともあります。怒るだけではなく、そのあとに「でも、ケガだけはするなよ」と言ってくれるんですけどね。
怒られると気分が沈んでしまいますが、周りのスタッフがフォローを入れてくれるのがありがたかったです。
「誰にでもそんなことはあるよ」という言葉をかけてもらったり、食事に誘ってくれたり。グラハンはチームワークが必要な仕事なので、自然と連帯感は生まれてきますね。それで自分も明るくなれるし、仕事も楽しめます。
--- グラハンは男性の方が多いそうですが、職場の雰囲気はどのような感じですか?
とにかく賑やかです!男女関係なく、和気あいあいと仕事をしています。
それでも締めるところはビシッと締めて、メリハリのある仕事をしています。毎日楽しく仕事に取り組めているのは、チームワークがあるからでしょうね。全員が一丸となって「飛行機を定刻通りに出発させる」というミッションに取り組み、それがうまくいったときには大きな達成感があります。
現場で働く男性も多いのですが、志望者も男性が圧倒的に多いです。私は一緒に働いてくれる女性が、もっと増えたらいいなと思っているんですけどね。
--- 子育て中の女性に対する、時短勤務などの制度はあるのでしょうか?
実は今、私が7:00〜13:45の時短勤務をしているんです。
以前は、そのような制度がありませんでした。制度がないばかりに、辞めてしまった先輩もいましたね。私も辞めようかと思っていたのですが、子どもが1歳に近づくにつれて、「やっぱり仕事がしたい」という思いが膨らんできました。そんな中、会社や組合の方が時短勤務制度を作ってくださり、育休後の私を迎えてくれました。
通常は早番・遅番勤務なので、自分だけが時短勤務をするということに不安を感じていたのですが、現場のみなさんも「戻ってきたの〜頑張ってね」と温かく迎え入れてくれました。これには本当に感謝しています。
私が復帰して働く姿を後輩が見て、「自分も結婚・出産してもまた働けるんだ」と思ってもらえればいいなと思います。もちろん、これから入社してくる女性にも、そう思ってもらえれば。
--- “グラハン女子”、カッコイイですね!
当社には13名のグラハン女子がいます。実は今、みんなで「ひなまつりフライト」を計画中なんです。
「ひなまつりフライト」は、3月3日のひなまつりに、1つの飛行機に関わる運航業務を全て女性が担当するフライトのことを言います。すでに羽田や成田空港などでは行われているのですが、セントレアでもできればと考えています。女性のみのチームを組むことで、何か特別なカラーを出せたらという思いからです。
「ひなまつりフライト」を実行するためには、まず、1つ1つのポジションに資格を持った女性が必要になってきます。まだプッシュバック(※2)の資格を持った女性がいないので、まずはそこをクリアしないといけませんね。
※2プッシュバック…自力でバックができない飛行機を、トーイングカーという特殊な車両を使い、駐機場から押し出すこと
--- グラハンには100以上の資格があると聞きました。
そうですね。特殊作業車はたくさんあるので、それぞれに資格が必要になります。その他には、ドアの開け閉めにも資格が必要なんですよ。飛行機の機種ごと、ドアの箇所ごとそれぞれに資格が必要なので、それらを全部合わせると100以上にはなりますね。
私も資格は持っていますが、9年たった今でもまだまだだと実感しています。
資格をとるためには試験をクリアしないといけないので、日々の仕事をこなしながら時間を見つけて、OJTや研修で訓練をします。資格をとれば、その分やれることもステップアップしていきます。
--- これからチャレンジしたいことはありますか?
ロードマスター(搭載監督者)の資格を取りたいと思っています。ロードマスターは飛行機への手荷物・貨物の積み降ろしを行うエキスパートです。作業工程を確認しながら全体を指揮していく必要があるので、色々と勉強しないといけません。
すでにこの資格を取得している同期の女性がいるのですが、ライバル意識というか、良い刺激になっています。「あの子も頑張ってるんだな、自分も頑張ろう」って。この資格を取得できれば、また新たなやりがいも生まれてくるのではないかと思います。
--- 古賀さんの働くセントレアには、どんな魅力がありますか?
海に面しているので、眺めがいいことですね。冬は空気が澄んでいるので、対岸の三重県の山々がくっきりと見えて、とてもきれいです。夕日も絶景です。夏は、ナガシマスパーランドで毎週末上げられている花火が見えるんですよ。
滑走路を離着陸する飛行機を、目の前で見られることも魅力の1つです。セントレアは風が強いことが多いので、上空からゆらゆらしながら下りてくる飛行機を、みんなでハラハラしながら見つめています。何度かトライして無事着陸できたときは、歓声を上げちゃいますね。こんなに素敵な空港で憧れの仕事に就けたことを、誇りに思っています。
男女関係なく、チーム一丸となって飛行機の安全な定時運航を支える古賀さんたち。とても大変だけど、かっこいい仕事だと思いました。
また、夏場の万全な日焼け対策を忘れないなど、女性としての可愛らしい一面も垣間見ることができました。
最近では、「グラハン女子」がテレビ番組で取り上げられたこともあり、徐々に仕事の知名度も上がってきましたが、まだまだ知らない方も多いのが現状。古賀さんたちが「ひなまつりフライト」を実現することでさらに注目され、グラハン女子が増えるといいですね!
(文・写真:吹原 紗矢佳)
1985年兵庫県生まれ。愛知県在住のフリーライター。大学を中退後、放浪の人生を送る。17歳の年の差婚を経て、ライター業に辿り着く。普段は愛知県を中心に、ローカルメディアや病院情報誌などで執筆。車やバイクなど、乗り物全般が好き。今回の取材を経験したことで、飛行機・空港の新たな魅力にハートをわしづかみにされる。