ANA関西空港株式会社 東さん
「男性の仕事」に女性が進出しはじめて久しいですが、それでもまだまだ少数派なのが実状です。30年前には女性は一人もいなかったという、空港での貨物のお仕事もそんな職業の一つ。
今回の関空グラハンの期待の星、東さんは、ANA関西空港株式会社空港オペレーション室グランドハンドリング部貨物サービス課に所属している「グラハン女子」。
体を動かすことが大好きという彼女は、航空関係の専門学校に在籍中の10月から早期入社という形で、いまの部署へ配属されました。「この仕事が好き!」と言う彼女に、グラハンのお仕事についてお話を伺いました。
東さんは入社してもうすぐ2年。貨物上屋(うわや)では貨物の積み込み、機側ではフレーターという貨物専用機の搭降載業務をしています。女性ながらフォークリフトも乗りこなし、たくさんの先輩に囲まれながら、ハードな毎日を過ごしています。
--- 関西空港での貨物担当者は、女性が1割ほど。なぜ東さんは貨物のお仕事に就かれたのですか?
中学生の時に「Good Luck!!」というドラマの再放送を見て、飛行機ってカッコイイなと思って飛行機に興味を持ち、それから空港で働きたいと思うようになりました。そこで「グランドハンドリング」という仕事があることを知ったのがきっかけです。
大学進学の選択肢もあったのですが、やはり「空港での仕事に直結する」と考え、専門学校を選びました。専門学校入学までに、ミッションで普通自動車免許を取らないといけなかったので、その点は苦労しましたね(苦笑)。
--- 空港の仕事といえばCAやパイロットをイメージする人が多いと思いますが、グランドハンドリングに興味を持たれたんですね。
はい。もともと体を動かすのが好きで。小さい頃からずっとスポーツをしていて、小学校と中学校では野球でピッチャー、高校はソフトボールでピッチャーとキャッチャーをしていました。
私は体を動かすことが好きだし、飛行機に直接携われるので、女性は少ない職場ですが、グラハンを志望しました。野球やソフトボールをしていたこともあり、男性の方が多い職場でもやっていけるかなと。
--- 貨物の現場で、女性ならではの強みは?
コンテナの中に入って貨物を積み込む作業があるんですけど、中は狭いので、小柄なほうが積みやすいという点は強みかなと感じます。
--- 体力勝負のお仕事ですよね。入社面接の際、スポーツ経験は話題になりましたか?
はい。先輩たちもスポーツしていたり、体を動かすことが好きな方が多いので、共通の話題としてポイントが高かったかもしれません。
--- 貨物サービス課に配属されてからはどんなふうにお仕事を覚えていったんですか?
まず貨物という仕事があることを知りませんでした。
もともと「マーシャラー(飛行機の誘導)」などの「グラハンの花形」と言われる仕事をしたかったので、決まったときは「何をするんやろう」というのが最初でした(苦笑)。貨物専用機のこともあまり知らなかったので、知らないことだらけの部署に配属になって、最初は少し戸惑いました。
一番大変だったのは、目的地の空港を「3レターコード」というアルファベット3文字で表すのですが、それと便名を一致させて覚えることでしたね。
細かいことですが、ちょっとしたことでもすごく仕事の効率が変わってきます。たとえば、貨物を積むときはパレット(貨物を積むための鉄の板)に貨物を乗せてビニールをかけて飛行機に積み込むのですが、そのビニールをかける手順やセットする順番など、常に先の工程を考えて行動するというのは意識していますね。
どんな仕事もそうかもしれないですけど、「あの人こうしてるから自分も真似してやってみよう」というふうに、人の行動を見ることはすごく勉強になっています。
--- なるほど!先輩たちを見て、お手本にしてるんですね。
そうですね。他にも、貨物を積むときにはテトリスみたいに考えながら積まないとならないんですけど、それはけっこう職人技で。先輩たちはどんどん積んでいっていて、考えていないように見えてもすごく考えて積んでらっしゃるので、私もその姿を見てまだまだ勉強しているところです。
貨物専用機のサイズにより、積める貨物の数は変わります。でも、貨物の形や大きさ、重さもバラバラだし、見てすぐにどう積めばいいか判断しないといけません。
うまく積まないと、予定していた便に貨物を載せられなくなり、お客様にお約束した時間に届けられなくなるので、この判断はかなり重要なんです。
--- そうなんですね!きれいにたくさん積めたときは「よっしゃ!」みたいな?
思いますね(笑)。
--- 「この仕事が好き」と言えるのってすごくいいですね。お仕事以外にも、関空の好きなところはありますか?
夏には対岸のりんくう公園で行われる花火大会の花火が作業中に見えたりします。あと、早番のときに見る朝日もすごくきれいです!何も遮るものがないので、めちゃめちゃきれいですよ。
--- それは素敵!働いている人の特権ですね!
--- お休みの日ってどんなことしてるんですか?
普段は大阪で一人暮らしですが、実家が奈良なんです。奈良にあるソフトボールチームに所属しているので、日程が合えば、練習や試合に行ったりしてます。それが休日の一番の楽しみですね(笑)。
--- 他に、好きなお仕事はありますか?
貨物機の出発作業で、最後に作業員が飛行機に手を振るのですが、そこが一番ですかね…。好きというか、出発の時、私はものすごく緊張するんですけど、手を振って見送っている時は「何もなくてよかったな」とホッとします。
飛行機の出発時は、エンジンの音がかなり大きくて、その近くでの作業は、その音になかなか慣れず、いつも緊張してしまうんですよ。
飛行機に貨物を積み終え、タグ車で飛行機が自走できるところまで押した後、機体を止めているチョークという車輪止めを外します。その時にもし何かトラブルがあると、貨物を積んだ努力も水の泡になってしまいます。何事もなく手順どおりに業務ができて、手を振って飛行機を見送れたら、「ああよかったな」と安心できるんです。
--- これからやってみたいことや、夢はありますか?
入社するときは、私はマーシャラーをしたくて入社したので、それを目標にいま頑張ってます!そのためにも資格が必要なので、勉強して訓練して資格とって…、っていう感じです。
これからも、ずっとグラハンの仕事をしていきたいですね。大きな飛行機に携われる仕事は、他ではなかなか味わえない醍醐味でもありますし、すごくやり甲斐があるなって実感しています。
そして、同時にソフトボールも続けていきたいですね。
素朴な雰囲気のなかに、意志の強さをのぞかせる東さん。早朝勤務もあれば深夜作業もあり、季節によっても決して楽ではない貨物のお仕事ですが、それでも「ずっとグラハンをやっていきたい」と迷いのない姿はとてもキラキラしていました。
「女性だと敬遠してしまいがちな仕事だけど、男性も力を貸してくれるから、どんどん女性にも入ってきてほしい」と話す東さん。空港で輝いている女子は、CAさんだけではないということを教えてくれました。
そして彼女の夢が叶い、機体の前でライトを振って誘導する日もそう遠くない将来かもしれませんね。
(文・取材 ikekayo)
関西を拠点に活動するライター。「人の持つ無形の価値に輪郭を描く」ことを意識して書いてます。