ANA新千歳空港株式会社/一般社団法人 千歳観光連盟(出向)
川口 達也さん
新千歳空港でANAグループの運営と地上支援業務を担うANA新千歳空港株式会社(CTSAP)の川口達也さんは、貨物ハンドリングを入社から6年半務めたのち、7年目の2022年4月から一般社団法人 千歳観光連盟に出向しました。これまでとまったく違う地元・北海道千歳市の観光振興に奮闘して得られたことや、感じたことをうかがいました。
--- 航空業界を目指したきっかけは何だったんですか?
川口:滋賀県に住んでいた小学4年の時、祖母が住む鹿児島へ向かうため伊丹空港(大阪国際空港)から飛行機に乗りました。親は仕事で行けなかったので1人での搭乗でした。CAさんに搭乗証明書のようなものをもらい、「乗ってくれてありがとう!」と言われて嬉しかったことを覚えています。自分も周りの人に同じような喜びを与えたいと思い、航空業界を目指したいなと思いました。
鹿児島の工業高校の電気科を卒業したあと、飛行機の整備の勉強をすることを考えましたが、接客や人と話す仕事にも興味があり、岐阜にある航空専門学校へ進むことにしました。
--- 専門学校ではどのような勉強をしたのですか?
入学したエアポートサービス課ではグランドハンドリング(グラハン)コースとグランドスタッフコースがありましたが、人と話すことが好きで、接客をやってみたかったこともあり、グランドスタッフコースを選択しました。
1年間グランドスタッフコースに在学し、そのうち半年間は中部国際空港でインターンシップに参加していました。2年目の4月に学校に戻り、5月に新千歳空港の採用の話を担任の先生から聞いて、その年の9月に入社しました。入社までの間、接客のスキルやマナー、英語の勉強を頑張りましたね。
--- 鹿児島のご出身で北海道に就職されたそうですが、最初に北海道と聞いてどうでしたか?
川口:南から北に上がってきたなと(笑)。
最初は鹿児島空港での仕事を希望していたのですが、専門学校の担任から「新千歳空港で採用枠が空いているので応募してみてはどうか」と提案され、親が奨める正社員の募集だったこともありすぐに応募しました。
早期入社制度で9月入社し、即戦力として卒業までの間グラハンの貨物に携わる部署に配属されました。正式に入社したのは、その翌年の2016年4月です。
--- 希望のグランドスタッフではなくグランドハンドリングでしたが?
川口:総合職での入社だったので、「どの部署に配属されるか分からないけれど、大丈夫ですか。」と言われていました。でも、いずれは異動もあるのだと思い、配属の第1希望を旅客スタッフ(グランドスタッフ)と出していましたが、結局は今回出向に至るまで異動はありませんでしたね。
--- 希望とは違う仕事だったと思いますが、グラハンのお仕事はどうでしたか?
川口:グラハンというと、飛行機を誘導しているイメージが強いと思うんですが、手荷物や貨物に関する業務など、実際にはいろんなことを行うんです。その中で、フォークリフトで貨物を運ぶ業務もあり、新千歳空港に来て初めて経験しました。
新千歳空港は半年間ぐらい雪の中の悪条件なので、大変なことも実は多くて、フォークリフトで目測を誤って、荷物を持ち上げるための「爪」をコンテナに刺してしまい、穴をあけたこともあります。年末年始の繁忙期で、まだ2年目で業務に不慣れなこともあり、コンテナを降ろしたら中に積み込まれていたみかんが、ジュースのように液体になってザーッと流れました(苦笑)。
--- 大雪の中での作業は大変そうですね……。
川口:機側(飛行機の近く)でコンテナを降ろしてパレット(貨物を載せる板)に移し替えますが、雪がすごく降るとパレットについている車輪やその周りに雪が積もって重たくなり、5人くらいで押しても全然動かないんです。
そういう時、作業を終えた人たちが集まって自分の担当する便ではないのに手伝ってくれます。サポートしてくれる時や、逆に自分が手伝って降ろせた時、心の中に熱いモノがこみ上げます。
失敗も本当にいろいろやりましたが、その度に周りと声をかけ合いながら協力して「チームなんだ」と思いましたね。
--- 新千歳空港のフォークリフトは北国仕様でドアがついてますね。他の空港ではオープンカーのイメージがあります。
川口:新千歳空港で初めてグラハンを担当したので、「フォークリフトはオープンカー」というイメージは特になかったです。特にびっくりすることもなく当たり前だと思っていました。フォークリフトは専門学校では乗ったことがなくて、新千歳空港に来てから免許を取得しました。
新千歳空港のフォークリフトには冷房と暖房がついています。北海道の夏は意外と暑いので、締め切って冷房を使います。冬は暖房をつけると、結露した水で雨みたいになり、視界が悪くなったりするんです。
(北国仕様のフォークリフト)
--- 7年働かれたグラハンの仕事を離れて、この春から観光連盟に出向しているんですよね。
川口:2022年4月から一般社団法人千歳観光連盟の事務所で働いています。
千歳翼の杜オートキャンプサイトは事務所から少し離れたところに8区画のキャンプサイトがあり、自家用車を直接サイトに乗り入れてキャンプすることができます。
そちらで、お客様のチェックインやチェックアウト、アウトドア用品の貸出、掃除といった接客業務を行っており、施設内には専用のシャワーやトイレを完備し、飛行機が真上を通って行くので、迫力満点で眺めることができます。
(川口さんが出向している千歳観光連盟が管理運営している千歳翼の杜オートキャンプサイト)
--- 出向はどのような経緯で?
川口:自身で希望を出したわけではなく、突然の辞令でした。全く違う業種でやっていけるのかなと心配でしたし、妻もすごく驚いてましたね。弊社にとっても初めての出向先で、誰も行ったことがなかったので、正直なところ不安が大きかったです。
--- 千歳観光連盟のお仕事はいかがですか?
川口:人と関わる仕事なのが楽しいですね。人を笑顔にしたいというのが自分の中にずっとあったので、キャンプサイトでお客様のために何ができるのかと考えてやれるのがすごく楽しいです。
--- インタビューの少し前までバーベキューを焼いていたとか?
川口:はい。ラジオ番組の打ち合わせでした。ミュージシャンが出演するラジオ番組と「YouTubeチャンネル」の収録を「美笛(びふえ)キャンプ場」(千歳市美笛)でする下準備でした。バーベキュー風景を撮影するというので実際に焼いていました。
--- そちらのキャンプ場はメディアのロケで使われる人気のキャンプ場なんですね。
川口:先日も豚丼の撮影がありました。出向先で地域連携課に配属された時は、何が仕事かが明確に分かっていませんでしたが、今は接客だけでなくメディア取材にも対応しています。独り立ちしたら「今後は外部の対応もお願いしたい」と言われています。
--- キャンプ場の管理業務からCM撮影などメディア対応まで幅広いんですね。やりたかった接客ができて生き生きされていますが、大変なことは?
川口:空港では、新人に対しての指導や研修の機会があり、その日に担当をする仕事も定められていますが、観光連盟では仕事を自ら探していく必要があります。空港では、次にやるべき仕事は大体把握をしていて、そのうえでどうしても分からなくなったら上司に聞くという姿勢でしたが、今は、次の業務に迷っても「あれをやっていいですか?」と毎回尋ねることはできません。試行錯誤しながらではありますが、なんとか頑張っています。
--- キャンプサイトのお客様の様子はどうですか?
川口:「千歳翼の杜オートキャンプサイト」は空港に近くて、飛行機を間近に見ながらキャンプができるのが売りになっています。離陸も着陸も真上を飛んで行くんですよ。
家族連れが多くて、毎回お子さんが、首が痛くなるんじゃないかと思うくらい上を向いて飛行機を見上げていますね。
--- 空港では日々イレギュラーが起きていると思いますが、キャンプ場ならではの難しい対応などはありますか?
川口:そうですね、大きな音や光はトラブルになりやすいです。深夜に騒音を出される方がいらっしゃり、8区画のうち3区画からクレームが出て、朝のチェックアウト時に注意をしたこともあります。
自分にとって初めてのお客様で、本当は「やめてください。」と強く言わなくてはいけないのに、ちょっと怖くて自分で言えなくて、結局上司に言ってもらいました。自分は「ドラえもん」のスネ夫みたいに上司の後ろに付いていっただけでした(笑)。
--- 平日の勤務時間は? 土日の勤務もありますか?
川口:基本的には平日の8時45分から17時30分が勤務で、土日は休みです。土日は他のスタッフが対応されていますが、最近はイベントが多くなってきたので土曜日に出勤することもあり、その場合は前週の金曜日に休みをいただいています。
空港勤務の時は、4勤2休のシフトで朝早いシフトは午前5時から、遅いシフトは午後3時からでしたが、今は毎日同じ時間に起きるようになり、日勤に慣れてきました。最初の1カ月ぐらいはなかなか慣れなくて大変でしたけど、シフト勤務と日勤の差を感じなくなりました。
--- 仕事で感じている課題はどんなことですか?
川口:どのようにしたら相手にうまく言葉を伝えられるかということですね。観光連盟は初めての方と話す機会も多く、短い会議の時間の中などで、一発で自分の考えていることを伝えるためにはどう言ったらいいのかと言葉に迷ってしまうんです。貨物勤務の時は同僚との会話なのでフランクにできたんですが(笑)。
組合活動にも携わっていましたが、そこでも言葉の使い方をちょっと間違うと伝わらなかったり、なかなか思うように言えなかった自分がいました。組合活動の3年の間、一緒に組合活動をしていた同期はとても話が上手で尊敬しています。面白いやつなんですが、人前で話すのが1番うまく、本当にその同期みたいになりたいと思います。
今は会社から外に出て試行錯誤していますが、知らない相手にどう伝えるといいのかなど、結構スキルアップできてるのではと思っています。
--- 出向先でやってみたいことはありますか?
川口:出向は2年間と言われています。来年度には千歳市の観光を盛り上げる企画を計画から実行まで来年度にやってみたいです。
--- 出向先の経験を、この先どのように活かせそうですか?
川口:たとえば、これまでは、自身が進行していく中でだらだら進めてしまっていたことがありましたが、今は議題が時間内に終わるように心がけています。報告を受けるだけで誰も意見を言わない、議論に参加しないということはありません。
こういった組織間の違いから学んだことを持ち帰り、ANAの良さと観光連盟の良さを融合していけるといいのかなと思っています。現在の出向先では外部とのつながりも増えて、その人達の信頼を得ることができました。出向から戻った際には、お客様に寄り添うサービスの提供に貢献できればと思います。
(久しぶりに会う同僚と)
--- この3年間はやはり大変でしたね。
川口:はい。年収が下がって、この先どうなってしまうんだろうと思う時期もありました。でもずっとこのままではないし、やっぱりコロナ禍は終わると信じて、一緒に頑張っていこうと仲間と声掛けしながらやってきました。
--- 航空業界を目指す人に何か言葉があればお願いします。
川口:航空関連産業はコロナ禍で厳しい時期ですが、必ず需要は回復すると信じて仕事を続けてきました。コロナ禍の影響を大きく受け、就職のタイミングで希望の会社や職種の募集がないかもしれませんが、決して目指すことを諦めないでほしい。
この業界で働きたいという思いをしっかりと持てば、絶対に道は開かれて、その先も頑張って働き続けていけると思います。自分を信じて挑戦してほしいです。
(2022年6月取材)
(文:小島昇)
フリーランス記者・編集者。東洋経済新報社「会社四季報」センター記者として上場会社を取材。インプレス「Web担当者Forum」でサイト担当者向けニュースを、アスキー「ASCII STARTUP」でスタートアップ界隈の話題を執筆。毎日新聞社で経済部記者として電機メーカーや通信業界、東京証券取引所、総務・経産・国交省などを取材。ニュースサイトの編集・編成10年を経て2019年9月退社し独立。
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