ANAエアポートサービス株式会社
内藤真也さん
子どものころに見たドラマを機に、航空関連の仕事に憧れを抱いた内藤真也(ないとう しんや)さん。進路に悩んだ学生時代の内藤さんの背中を押し、入社2年目終盤からのコロナ禍での困難な状態を支えたのは、高校時代の恩師の言葉だったといいます。
華やかな印象のあるグランドスタッフのお仕事。その実態と内藤さんの仕事への向き合い方について、たっぷりお話を聞きました。
--- 内藤さんがグランドスタッフを目指したきっかけは何ですか?
子どもの頃にドラマ「GOOD LUCK!!(※)」を見て、航空関連の仕事に憧れを抱いたのが原点ですね。ANAを目指したのもドラマが理由です。
グランドスタッフという仕事を意識したのは、旅行で空港を利用したときの経験からです。夏休みに何度か飛行機に乗る機会があったんですが、緊張して朝ごはんがのどを通らないくらい小さい頃は慣れない飛行機に乗ることが怖かったんです。その様子を見たグランドスタッフの方が笑顔で優しく接してくれ、勇気をくれたことで、自分もこんな風になりたいと思うようになりました。
※2003年にTBS系で放送されたテレビドラマ。ANAを舞台に、木村拓哉演じる若手パイロットと、柴咲コウ演じる整備士の仕事と恋愛を描く。
--- では、そこから一直線にグランドスタッフを目指したのでしょうか。
就職活動のぎりぎりまで、高校の教員になるかANAのグランドスタッフを目指すかで進路を迷っていたんです。決め手になったのは、高校時代の担任であり部活動の顧問である恩師の「教員は社会経験を積んだあとからでも目指せる。ANAの採用が進んでいるのなら、そのチャンスは逃さないほうがいい」という一言でした。
教員になりたいと思ったのも、その先生に出会ったからなんですよ。そんな尊敬する先生からの言葉を受け、グランドスタッフの道を選ぶことにしました。
--- グランドスタッフは空港のお仕事の中でも華やかな印象がありますが、実際はいかがでしょうか。
確かにキラキラした印象がありますね。ただ、実際には姿勢よく長時間立っていたり、広い空港内を何度も行き来したりするような肉体労働的な部分があったり、変則的なシフトに慣れるのが大変だったりと、ハードな側面がある仕事です。朝4時に勤務開始の日があれば、深夜1時に勤務終了の日もあるので、最初は生活リズムをつかむのが大変でした。
--- 日々、どのようなお仕事をしていますか?
仕事内容はいくつかあります。今、私が携わっている仕事は、国内線のチェックインカウンター、搭乗口、到着ロビーでの責任者業務です。国内線バックヤードの遺失物や手荷物事故を扱う部署の責任者も務めています。
また、ANAエアポートサービスには、国内線担当の係員が国際線のチェックインカウンターの仕事もできる資格制度があります。その制度を活用し、今は国際線のチェックインカウンターと搭乗口の補助、搭乗ロビーや到着時の対応にも携わっています。
これらの業務のうち、座っておこなう仕事は遺失物等を扱う業務ぐらい。空港で立っているときは誰に見られてもいいように姿勢を崩さないようにしなければならないので、本当に体力がいるんです。
--- 実にさまざまなお仕事をされているんですね。どのお仕事がお好きですか?
1番楽しいのは搭乗口の責任者です。お客さまの搭乗が完了したあと、飛行機の扉を閉める役割を担えるんです。ターミナルと飛行機の出入り口をつなぐパッセンジャーボーディングブリッジ(PBB)が離脱したあと、最後に飛行機を見送るまでが責任者の仕事。PBBで飛行機を見送れるのは責任者だけなので、ここでお見送りできるのがやりがいなんです。パイロットに手を振り返してもらえることもあるんですよ。
難しい仕事をやり遂げたやりがいを感じられる業務でいうと、手荷物対応かなと思います。手荷物の破損や事故という、ご迷惑をおかけしているお客さまに対して、自分や仲間や会社が何ができるかを考える仕事なので、上手く対応できたときには喜びと安堵感があります。
責任者になるには資格が必要です。搭乗口の責任者は比較的早く取得できる資格で、入社2年目の半ばに取得しました。
この仕事は難しそうなイメージがあったので、あまり積極的に取ろうとは思っていませんでした。ただ、マネージャーや周りの方たちから「適性がある」と背中を押されて、挑戦しようと思ったんです。
--- これまでに大変だったこと、失敗談について教えてください。
1番印象に残っている失敗は、2年目のできごとです。
釣りをしに八丈島へ向かわれるお客さまの対応をプレミアムカウンターでしているなかで、話がかなり弾んだんですよね。手荷物の受託手続きをしながら「島の天気が心配だけど、飛べると思う?」と聞かれて「たぶん大丈夫だと思います」なんてフランクにやり取りしていたんです。
でも運が悪いことに、八丈島に向けて飛び立った便が荒天のため着陸できず、羽田に戻ってきてしまったんです。こうしたイレギュラーが発生したときは、ヘッドと呼ばれる対応責任者が振替方針のご案内など現場対応をします。このとき、私が初めてヘッドを務めることになったんです。
--- 「大丈夫」と言ってしまったお客さまがいる分、緊張感がありますね。
そうなんです。お客さまは「大丈夫って言ったじゃないか」とお怒りでしたし、私も軽率な発言を反省し謝罪しました。その上で「現地の今の天候では船も出ずに釣りも楽しめなかったかもしれません」などと状況を丁寧にご説明したことで、ご納得いただけました。天候は不確実なものなので、無責任な発言からお客さまに期待感を持たせないようにしなければと思った経験です。
--- 内藤さんはコロナ前後の変化もご経験されていますよね。仕事への考え方やモチベーションに変化はありましたか?
コロナ禍前までは本当に忙しくて、もう少し余裕があればな……と思ったこともあったんです。ただ、実際にコロナ禍でお客さまが減ったことで、あらためてお客さま一人ひとりへの感謝の気持ちを持ちました。
当時は本当に先行きが見えず、減給や出向の辞令を受けて退職してしまった仲間もいましたが、私は公共交通機関としての役割に誇りを持っていたことや、「ここを工夫して乗り越え、自分の価値を証明できる人材になりたい」と思っていたことからモチベーションは落ちなかったです。
私は出向を経験しなかったのですが、出向になったら新たな視点や知見を得られると前向きに捉えていました。本来であれば転職しなければ経験できないことに触れられるのは良いことだなと。
--- 実際にはどのような工夫をされたのですか?
コロナ禍に加えて九州で豪雨災害があったことを受け、九州の空港に励ましの動画を作って送るプロジェクトを企画しました。佐賀空港のメンバーからお礼のメッセージをいただき、逆にこちらが励まされましたね。ANAのチームワークの良さを感じ、あらためて入社して良かったと思いました。
私を含めた有志で、フライトするお客さまをお見送りする横断幕作りも企画しました。こうした若手の発案に許可を出してもらえたのも嬉しかったですね。
--- 先行きが見えない中でも、モチベーションを落とさずに自分のできることを探し続けてこられたんですね。
先ほども少しお話しした高校時代の恩師から「今、高い壁があったとしても、乗り越えた先に素晴らしい景色が待っているなら果敢に挑戦すべきだ」と言われたことがあって。その言葉がすごく印象的で、厳しい状況を乗り越える糧になりましたし、普段の仕事にもその考え方が活きています。
--- その他、お仕事をするなかで嬉しかったエピソードがあればお聞かせください。
ありきたりかもしれませんが、やはりお客さまからの「ありがとう」の一言をもらえるのはすごく嬉しいです。実は「ありがとう」の一言はそんなに頻繁にいただけるものではないんですよね。やっぱり感謝の言葉はやりがいになります。
あとは、母校の高校サッカー部が沖縄で開催されたインターハイに行くときに団体枠でANAを利用してくれて、勤務中に空港で後輩たちに会えたことですね。尊敬する先生が私のことを後輩に紹介してくれたのが誇らしくて。先生に成長した姿を見せられたのも嬉しかったです。
--- 内藤さんの今後の目標は何ですか?
国際線のスタッフに引き継ぐことなく対応できれば、お客さまにとってもより便利に感じていただけるだろうなと。
--- 最後に、これからグランドスタッフを目指す方にメッセージをお願いします。
キラキラしている印象のある仕事ですが、実際には厳しい部分もたくさんあります。理想を持って入るのはいいことだと思いますが、理想と現実とのギャップにダメージを受けることのないよう、リアルな部分もいろいろ調べてみるといいんじゃないかなと思います。
グランドスタッフの仕事は、1日たりとも同じ日がありません。いろいろなポジションがあり、お客さまの数だけ対応があり、突発的にその日予定されていた業務内容とは異なる業務を担当することになる日もあります。
毎日いろいろなお客さまと接することで、日々違いを味わえる、ワクワクできる仕事なので、なりたい気持ちを大切に目指していただきたいなと思います。
(2023年5月取材)
(文:卯岡若菜、写真:大久保惠造)