日航関西エアカーゴ・システム株式会社
輸出部 松山雄司郎さん
「なんとなく」の気持ちで航空専門学校に進学し、貨物の道に進むこととなった松山さん。学校からの紹介で今の会社に入社し関西国際空港で働くこと15年、今では多くの後輩から頼られる輸出部のエースです。
ミスが許されない時間勝負の仕事だからこそ和やかな雰囲気を心がけ、かつて自身を指導してくれた先輩のように、助け合いの精神を大切にしながら仕事に取り組んでいます。
3人の子育てと仕事を両立しながら日々奮闘する松山さんに、貨物の仕事の内容やそのおもしろさについて聞きました。
--- 松山さんは新卒で日航関西エアカーゴ・システムに入社して15年目とのこと。どのようなきっかけで今のお仕事に就いたのでしょうか。
高校まで鹿児島で育ち、福岡の航空専門学校に進学しました。関西で働くとはまったく予想していなかったのですが、学校から紹介されたご縁で今の会社に入社しました。
--- 高校時代から、航空系のお仕事に就きたい気持ちがあったのでしょうか?
学生の頃は特に「これになりたい」といった夢がなくて。やりたいことがないので、大学進学するよりも就職に特化した学校に行く方がいいかなと思い航空専門学校に入ったんです。実家が建設業をしていたので建設系も考えましたが、両親からは「違うジャンルに挑戦してみたら?」と。
専門学校ではグランドハンドリング学科に入り、グラハンの仕事や都市の3レターコード(※)を勉強したのを覚えています。航空貨物の流れを学ぶなど、貨物に特化した授業もありました。
専門学校時代は、福岡空港で貨物を取り扱うアルバイトもしましたね。主に荷物を積んだり降ろしたり……という搭降載の仕事を2年ほどしていました。
※アルファベット3文字による略記法。世界中の空港や都市にそれぞれのコードが割り振られている。
--- 日航関西エアカーゴ・システムに就職しようと思った決め手は何でしたか?
子どもの頃からJALになじみがあり、なんとなく良いイメージを持っていました。
学校からは、就職先も(アルバイトをしていた)福岡空港の会社と同じような仕事内容だと聞いていたので、仕事のイメージも持った上で入社しました。
--- 輸出部のお仕事は「航空貨物代理店から貨物を預かり、各航空会社のプランに基づいて積みつけ指示を行う」とのことですが、普段どんなお仕事をしているのかもう少し詳しく教えてください。
仕事内容はよく質問されるんですが、自分の仕事を紹介するのってなかなか難しいんですよね。
主な仕事は、貨物を飛行機のどこに搭載するかをマニュアルに沿って決めることです。航空会社ごとにルールが定められているので、そのルールに則って貨物上屋(※)の担当の方に積み付けの指示を出すんです。
※貨物の荷捌き、積み降ろし、保管などに使用する建物
--- 「ルール」とは具体的にどのようなものですか?
たとえば、「重い貨物は下に、軽い貨物は上に積んでください」「隙間(デッドスペース)がないように積んでください」「貨物のダメージを防ぐためにこのように保護してください」「盗難防止のためにこのように梱包してください」といったルールが航空会社ごとに決められています。
パレット(貨物を載せる台車)の枠内にどれだけ乗るかを計算しつつ、中央が高い山形になるようなイメージで載せていきます。真ん中に谷があると雨の時に水溜まりができてしまうので。
「ルールが多めでちょっと難易度の高いテトリス」をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません(笑)。
--- 覚えることがものすごく多そうです!
航空会社ごとのマニュアルを隅々までチェックしなければいけないですし、マニュアルは定期的に変わるので、覚えることは多いですね。
また飛行機は待ってくれないので、出発の時間までに作業を終わらせないといけないというタイムプレッシャーもあります。23時の出発便を担当する場合、17時頃に積み込む貨物のプランが送られてきます。そこから1時間ほどでプランを基に上屋担当者に指示を出せるようにします。
--- 普段取り扱っている貨物はどのようなものですか?
特に多いのは生鮮品や医薬品、車のパーツ、半導体、シップパーツ(船の部品)などですね。関空は中国への路線がメインになってるので、中国向けの輸出品が多いんです。
特殊な貨物だと、有名な海外アーティストの楽器をチャーター便で運んだことがあります。あとは動物ですね。競走馬やイルカを運んだこともあります。イルカは大きい水槽に海水を入れ、水が飛び散らないようにきっちり保護して運びました。フライト中にお世話をしないといけないので、飼育員さんも一緒に搭乗するんですよ。
--- 覚えることの多いお仕事で、配属されたばかりの頃は大変だったのではないでしょうか。
新人の頃は大遅刻をしてお叱りを受けたこともありました……。入社3年目で輸出部に配属されてすぐの頃は、挫折しかけましたね。現場からパソコンメインの仕事に移ったギャップもありましたし、覚える事が多く自分にはできない、無理だと感じてしまって。周りの先輩や後輩も含めて仲間たちのサポートがあって乗り越えられたと思っています。
輸出部はお互い積極的に助け合う雰囲気のある部署で、今までお世話になった先輩たちは厳しくも愛のある人ばかりです。その経験を通して感じた助け合いの精神は、今の私の仕事のベースになっています。私自身もその文化を後輩たちに伝えていきたいと日頃から思ってます。
--- 具体的にどういった形で「助け合い」を体現していますか?
フライトが迫ってくると、一人では処理しきれない局面が必ずあります。そういう時に、誰かがすぐフォローに入れる環境作りを心がけています。普段から密にコミュニケーションをとって「今厳しいです」というタイミングですぐに手を上げられるのが大事なのかなと。
なので、ピリッとした現場でもなるべく冗談を言うようにしています(笑)。話しかけづらい空気をあまり出さないように。
--- そういう先輩がいると心強いですね。
若年層の社員は「仕事を一生懸命する」というのが仕事になってしまうところがあるので、どうしても周りが見えづらいし先輩に気を遣ってしまう。私は若い頃、厳しい局面で気軽に話しかけられる雰囲気を出してくれていた先輩の姿に憧れていたので、自分もそうありたいなと思っています。
--- いつも何人くらいのチームで一緒に仕事をしているんですか?
部署は全部で20名ほどで、シフトが一緒になったメンバーと4〜5人で都度チームを組みます。
今は部署全体が若くて、20代が半分以上ですね。30代があまりいなくて、40代が5、6名ほど。ちなみに半分以上は女性社員です。社員は北海道から沖縄までの日本全国、そして世界からも集まっています。意外と関西出身の人の方が少ないかもしれません。
--- 先ほどシフト勤務のお話がありました。「シフト勤務が大変そう」というイメージで航空業界で働くことに二の足を踏んでしまう人もいそうです。
シフトは朝6時からもあれば昼12時ぐらいの出勤もあり、曜日によっては夜勤もあります。
私の場合は「早番、早番、遅番、遅番、休み、休み」を繰り返しているのですが、メリットを感じることの方が多いですね。
--- 具体的にどういったところでメリットを感じますか?
あまり人混みが好きじゃなくて。家族でどこかに出かけるときは平日の方がどこも空いていますし、旅行代も安かったりしますよね。そっちのほうが大事なので、個人的には土日休みでない仕事のほうが合っているなと思っています。
一方で、土日の子どものイベントにスケジュールを合わせづらいというのはあります。ただシフトのリクエストは入れられるので、たとえば運動会などイベントがある日は休みをとることもできます。
--- なるほど。お子さんとは普段どのように過ごしていますか?
12歳、10歳、6歳の3人の子どもがいて、普段は上の子と買い物に行ったり、ユニバーサルスタジオジャパンに遊びに行ったりしています。最近は釣りにハマっていて、ときどき一番下の子と一緒に行っています。
--- プライベートもしっかり両立できているんですね。
勤務時間が一定だと「◯時に起きて◯時には眠くなって……」といった毎日のルーティンができてくると思うんですけど、逆にシフト勤務に慣れてくると体内リズムを自分で調整できるようになったんですよね。「睡眠時間を◯時間にして、◯時から遊びに行こう」と自分で調整できるので、スケジュールの融通が効きやすいなと個人的には感じています。
--- 航空業界というと、パイロットやCAなどの仕事を連想する人が多いと思います。松山さんの思う貨物の仕事のおもしろさはどんなところですか?
貨物の仕事には地味なイメージを持たれる方が多いと思います。ただ貨物は生活に欠かせない物流を動かす仕事で、貨物の需要を伸ばすことは経済の発展にも大きく関わります。自分が担当する貨物が多くなればなるほど経済効果に影響を与えている、と感じられるのはモチベーションになります。
それから、成田空港から関西空港までトラックで貨物を転送することもありますし、他の空港との交流もあります。航空会社や貨物代理店、上屋の方など、実はいろいろな人とコミュニケーションをとれる仕事でもあるんです。
私の後輩には海外出張をしたり海外赴任をしたりというメンバーもいます。やってみたいという気持ちがあれば、無限の可能性がある仕事だと思います。
--- 松山さんは、この先やってみたい仕事はありますか?
他の空港で働いてみたいですね。特に成田空港は日本で一番取り扱う貨物の量が多いので、働いてみたら違うやり方や新しい気づきに出会えそうです。
--- 最後に、貨物の仕事に興味がある方に向けてメッセージをお願いします。
貨物の仕事は肉体労働もありますし、厳しい体育会系のイメージを持たれる方もいると思います。そういったイメージを変えていくためにも、私たちの部署ではわからないことがあったらすぐに聞くことができたり、「大変だな」と思ったときにすぐ助けを求められたりといった環境作りを心がけています。
もちろん忙しい仕事ではありますが、仕事を通じて自分自身が成長できる実感を持てますし、向上心がある方は世界にも羽ばたけます。可能性という意味でも魅力的な仕事なので、ぜひいろんな方にチャレンジしてほしいなと思います。
(文:べっくやちひろ、写真:渡部翼)