ANA大阪空港株式会社 馬場彩夏さん
東京の羽田空港と、沖縄の那覇空港、そして北海道の新千歳空港などへの定期航路を持つ神戸空港。神戸市内の夜景がキレイに見える隠れたスポットとしても人気です。取材時は新型コロナウイルスによる減便中で1日2便でしたが、普段は1日8便ものANA便※1のフライトがあるそうです。
今回はそんな神戸空港で、キャリア3年目のグランドスタッフとして働く、ANA大阪空港株式会社 馬場彩夏さんにお話を伺いました。
飛行機に乗るために空港に訪れたお客様をお迎えして、チケットを発券し、手荷物を預かり、機内へとご案内する。それがグランドスタッフの仕事です。スムーズに進んでいるときは笑顔でにこやかに対応できますが、現場ではイレギュラーがつきもの。ご搭乗時間ギリギリで空港に訪れるお客様や、ときには飛行機のメンテナンスがあったり、大雨や台風といった天候も大きく影響します。数百人の搭乗客を飛行機が飛び立つまでサポートする大切な仕事だそうです。
※1 一部、提携航空 会社の機材および乗務員で運航するコードシェア便
--- グランドスタッフとして働こうと思ったのはなぜですか?
香川県の高松出身で、小さい頃から高松空港の敷地内にある「さぬきこどもの国」という公園に、よく連れて行ってもらっていたんです。
(飛行機を見つめる幼少期の馬場さんと弟さん/さぬきこどもの国から見える高松空港)
飛行機がよく見えるので、大好きでした。マニアほどではないのですが(笑)。学生時代も、車でよく行っていました。ほかにも、東京にいる親戚が帰ってくるたびに、高松空港まで送り迎えしていたので、自然と空港に親近感がありました。
(幼少期の馬場さんと弟さんの向こうにはANAの機体が/さぬきこどもの国から見える高松空港)
(公園内には本物の飛行機も展示されている)
でも、「空港勤務」が第1志望になったのは高校1年生の時でした。きっかけは、アメリカへのホームステイ。生まれて初めて関西国際空港に行ったんですが、馴染みのある高松空港とは全く規模が違っていて、圧倒されました。
高い天井に、たくさんの航空会社のカウンターがずらっと並んでいる様子がとてもカッコよくて。“こんな空間で働きたい”と、その時に強く思いました。制服姿のCAさんに憧れる人もいますが、私は「空港」に憧れたんです。そこからは、ずっと一途に目指しました。
“空港で働くために何が必要か”と考えて、大阪にある短大の英語関係の学部に入学しました。大学を卒業してすぐ空港会社に就職する人もたくさんいますが、私はグランドスタッフの専門知識をつけてから働きたかったので、さらに専門学校にいくことを選びました。ずっと「空港で働きたい」という話をしていたので、両親も専門学校への進学を応援してくれました。
でも、専門学校へ行って、さらに一人暮らしすることは金銭的な負担が大きくて。実家のある香川県から岡山県にあるエアライン学科のある専門学校まで、片道約2時間かけて毎日通いました。
ただ、専門学校では在学中に岡山空港で4ヶ月ほどインターンシップをするのですが、その時は岡山市内にアパートを借りました。早朝から現場での実習だったので、とても往復はできなくて。
当時の空港会社の入社タイミングは、4月・6月・10月があったのですが、私は専門学校2年生在学中の10月にANA大阪空港株式会社に採用が決まり、それから神戸空港で働き始めました。勤め始めて今約3年半になります。
入社後から卒業までは、職場での仕事をレポートして単位を取得したりしながら、学校と仕事の両立を続けました。
職場では、1年目に座学・実技の訓練を受け、基礎的なことを学び終えると、1人立ちとして勤務が始まります。実際には、やっとそこから現場で色々な経験を重ねて知識をつけていきます。そういう意味では専門学校を出ていてよかったですね。岡山空港での4ヶ月のインターンシップで、チェックインなど有資格のお仕事以外のさまざまなお客様対応などを経験できたので、入社後に実務の知識がスムーズに頭に入ってきました。
--- グランドスタッフとしての1日の仕事の流れを教えてください。
神戸空港の基本的な勤務には、朝5時30分から14時30分までの「早番」と、14時から22時30分までの「遅番」があります。
早番の日は朝5時30分の出勤ですが、空港へ出勤する際の公共交通機関であるポートライナーの始発も走っていません。そこで三宮の自宅マンションにタクシーが迎えに来るので、タクシーを使って出勤します。出勤後は、引継ぎ情報や当日の情報を確認したり、カウンターの立ち上げに行きます。早番のグランドスタッフ全員で朝礼をしたあと、東京の羽田空港への出張に向かうお客様などでにぎわうカウンター業務が始まります。手荷物のお預かりやチェックイン、プレミアムチェックインカウンターでお客様対応、搭乗口での業務などを行って、羽田便を送り出します。
(アットホームな神戸空港入口でお客様を出迎える地元学生作の切り絵グランドスタッフ)
9時頃から、オフィスで合同ブリーフィングという始発便などの仕事の振り返りや共有事項の確認を30分間ほど行います。このミーティングは、私たちグランドスタッフのほかに、飛行機の周りで荷物の搭降載業務などを行うグランドハンドリング、無線でパイロットへの運航支援を行うステーションコントロールスタッフなど、早番の地上職全員が30名ほど集まって行います。地上職の全職種が合同で行う定例ミーティングは全国でも珍しいらしくて、神戸空港ならではみたいですよ。
その後休憩を挟んで、午後からの便の手荷物チェックやチェックイン、搭乗業務を行います。午後の便を送り出したら、終礼と1日の振り返りをグランドスタッフ全員で行い、14時30分に終業です。
早番の日は、家に帰ってすぐに休むこともありますし、元気な日は神戸でお買い物とかに行くこともあります。それに、USJにもよく行きます。お買い物が好きなのですが、今はコロナの影響であまり外出できないので、友達とリモートでつないで一緒に毎日1時間ほどYouTubeのヨガやストレッチ、筋トレなどをやって楽しんでいます。
--- 憧れていた仕事に就けたわけですが、イメージ通りでしたか?
一番違うと感じたのは、体力勝負だというところです。働く前はもっと、カウンターの奥でニコニコしているキラキラとしたイメージだったんですが、実際は1日の多くの時間、立ちながら仕事を行い、空港内を走ることもよくあります。でも、それ以上にお客様と関わることは楽しいです。やりたい仕事だったので、搭乗手続きなど業務自体も楽しんでやっています。
また、今は行ってはいませんが、入社して2年間くらいは到着した最終便の機内清掃もグランドハンドリングスタッフと共同で実施していました。毛布を畳んだり、座席の背もたれを拭いたりするのですが、こういった仕事もあるんだって思っていましたね。今ではいい経験だったと思います。
--- これまでで一番のイレギュラーの経験を教えてください。
始発の羽田便は、神戸空港発着するなかで一番大きな飛行機が飛んでいます。早番スタッフはみんなその便を定刻出発させることに、とりわけ高い意識をもって臨んでいます。ところが、私が便の責任者だったある日、満席だと405人が搭乗されるその便が、お客様が搭乗し終わって、飛行機をお見送りしてホッとした直後、離陸せずに整備調整で空港に戻ってきてしまったんです。
現場は全員、“これは大変!”となりました。飛行機が飛び立つまでのお客様対応は、キャビンアテンダントではなく、私たちグランドスタッフの仕事なので。
その便の欠航が決まると、初めて機内に乗り込んで行う「欠航アナウンス」を任されたんです。震えながらアナウンスしました。大袈裟ですが言った内容も正直覚えてないぐらいに緊張しました。でも、あの経験で度胸もつきましたね(笑)。
羽田行の始発便なので、午前中の会議に出張で向かうお客様や、国際線乗り継ぎ便利用のお客様からはお怒りの言葉を頂くなど、大変な状況でした。
お客様に飛行機から降りて頂いた後の、フライトの振り替え手続きも、私たち搭乗口のグランドスタッフの仕事です。ANA便であれば伊丹発の羽田便にご案内したり、他社便(スカイマーク)にお願いしたり。今すぐとお急ぎの方、午後便でもいい方、国際線との乗り継ぎの方、それにプレミアムカスタマーもいらっしゃいますから、どのお客様を優先して対応するべきなのかを見極める必要がありました。
でも、直接お客様と接している私たちのカウンターに一番情報が集まっているので、そんな状況の中でも、3名のグランドスタッフで、405名のお客様の「何が最善か」を次々と判断していかなければいけません。
お怒りのお客様の対応をしながらも、少しでも早く手続きをしないと、代替え便に間に合わなくなってしまうので。あれはすごい経験でした。
始発便の欠航はこのときだけですが、台風で大変なこともありました。2018年の台風21号です。関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突して空港機能がストップしてしまいました。このときは外国籍の方が、国際線を求めて関空からのベイシャトル(船)でたくさん神戸空港に来られたんです。
でも、神戸空港からの国際線は就航していないので、国内線への振り分けよりも調整に時間が掛かる他空港の国際線への振り分けも行いました。さらに、その日中の便に振り替えができない方も多くて、そのときは宿泊の手配をしたり、その説明を英語でし続けて。空港内に溢れんばかりの外国籍の方が集まったので、“終わりがない”と思ったのを覚えています。
--- そういったイレギュラーの対応は事前に習うんですか?
入社1年目にイレギュラー対応に特化した座学があって、そこで学びます。ほかにも先輩から普段、ノウハウや手順を教えて頂きます。ただ、イレギュラー対応では経験も大切になってくると思っています。こればかりは数をこなして経験を積むしかないですよね。実際のイレギュラー現場では先輩に聞く余裕もありませんし、先輩もお客様対応や、自分の仕事で手いっぱいでゆっくりアドバイスを聞くことはできません。
だから、“自分で何とかする!”っていう感じです。とにかく次々と対応して、終わった後は抜け殻みたいになっていますね。
イレギュラー後にストレスを持ち越さないのも大事と言われますが、私の場合は、神戸市内の夜景が見えるスポットで、見晴らしもいい空港の屋上の展望デッキにフラッとあがって気分転換することもたまにあります(笑)。でも、昔から“寝たら忘れる”のが得意なので、よく寝て気持ちを切り替えていますね。
--- 反対に仕事でうれしかった出来事はありましたか?
新入社員の頃に出会った、沖縄からいらっしゃったお客様とのエピソードです。台風などによる欠航や遅延といったイレギュラーでうまく乗り継ぎができなかったお客様にできることを必死で探しながら、一生懸命に対応しました。すると、そのお客様が次に神戸空港を使ったときに、わざわざ私を見つけて「あのときは、ありがとう」って、たぶん手作りのキーホルダーをくださったんです。それは今でもネームホルダーに入れていつも大切に持ち歩いています。
(お客様から頂いた宝物。クマのキーホルダー)
ほかにも、出張でよくご利用くださるお客様とのコミュニケーションもすごくうれしいです。
神戸空港はコンパクトな空港なので、お客様との距離が近いんです。だから、頻繁に乗るお客様とは顔見知りになることも多くて、チェックインのときに近況報告をして頂いたり、プライベートの話をして頂いくださったりする方もいらっしゃいます。
今はコロナの影響でお会いできないから、寂しいですね。でも、羽田行きのお客様で、今は他社便(スカイマーク)をご利用の方もいらして、私を見つけると挨拶がてら「ANAまだ運航再開していないんやね~」と話しに来てくださるんです。早くまた、ご一緒したいです。
--- 今後の目標と将来の夢を教えてください。
後輩の育成にはもっと力を入れたいと思っています。自分が教えた後輩が、現場でしっかり頑張っているとうれしい気持ちになって、やりがいを感じているからです。
今年、4月入社の後輩のOJTを担当したのですが、後輩には専門学校時代から教えて頂いてきた“挨拶の大切さ”と、“何事にもなぜ?という意識を持つこと”を大事なこととして伝えました。
業務の手順や知識は自分で勉強すれば後からでもついてくるので、“なぜその手順になっているのか”、“なぜその手続きをしなければいけないのか”、そういった根本的なところは一緒にいる時にこそ、しっかり伝えないといけないと思っています。
これは、私を教育してくれた先輩もすごくその2つを大切だと伝えてくださったからです。根っこの部分から教育をして頂いたのが今の仕事で役に立っているからこそ、私もこうしたことを伝えています。その教育担当の先輩が退社されたときに、「ここまで育ってくれて、ちゃきちゃきと仕事ができるようになってくれてうれしいよ」って言われたのが印象に残っています。
あと個人的な夢としては、いつか将来、羽田空港や関西空港などといった働いたことのない空港での業務も経験してみたいと思っています。
--- 神戸空港の特徴と魅力を教えてください
一番は神戸空港をご利用のお客様との距離が本当に近いところです。そして、職場の同僚と毎日行う全員参加の合同ブリーフィングのように部門を超えたコミュニケーションができるところで、とても働きやすいです。
最初に空港で働くことを目指し始めたときは、とにかく大きい空港で働きたいと思ったんですけど、今は、神戸空港の“みんなで1便を”というチームーワークにやりがいを感じています。この規模感が、すごくいいなと感じています。
あと、他の空港では、搭乗後に飛行機の窓の外でグランドハンドリングの担当者が手を振りお見送りするのを見たことがあるかと思いますが、神戸空港では、搭乗ゲート業務を終えたグランドスタッフも、グランドで飛行機のお見送りを行っています。
(全国的にも珍しいグランドスタッフも参加するお見送り)
建物の外に出ますし、大好きな飛行機をそばで見てお見送りするのは気分転換にもなりますね。思い立って飛行機とお客様をお見送りできることも神戸空港で働く魅力ですね。
ぜひ、神戸空港をご利用の際には、窓の外を見てください。私たちもお見送りしているかもしれませんから(笑)。
--- 新型コロナの影響はどうでしたか?
今は減便していているのでお客様と接する機会が減ってしまいました。緊急事態宣言の期間中、少ない時には1便にお客様が2人なんてこともありました。イレギュラーとは違い、今まで全く経験したことがない状況で、正直不安にはなりましたね。コロナの影響がある前は満席便が続いていたので、なおさらかもしれません。お正月が明けた後、徐々にお客様が減ってきて。
(2020年6月某日の神戸空港カウンター)
同期36人のうち、神戸空港にはグランドスタッフ3人、グランドハンドリング3人が配属されているのですが、コロナ期間中のオフタイムには同期とZoomで話したりして、お互い支え合いました。
刻々と変わる状況の中で、コロナの影響で欠航のお知らせをインターネットやメールなどで公開してはいるものの、それをご覧になっていないお客様が空港にいらっしゃって、「そんな連絡は来てない。」と、お叱りを受けることも何度かあったのですが、せっかく予定を組んで空港まで荷物も持ってきてくださったのに、ご搭乗頂けなくて、大変申し訳ない気持ちになりました。
今は緊急事態宣言が明け、少しずつ予約数が戻り、お客様と接する機会も増えてきて、ご対応させて頂けると、本当にうれしくて、ありがたい気持ちになります。
私たちの仕事は、やっぱりお客様がいらしてこそなんだなと改めて思いました。これからは、今まで以上に1人1人のお客様に親身に、しっかり向き合ってお仕事をしていきたいですね。
--- 最後にグランドスタッフの仕事の魅力と、どういう人が向いていると思うか教えてください。
私はお客様と接する仕事がしたいと思って空港の仕事、グランドスタッフを選びました。お客様からご意見を頂戴することもあるけれど、ありがとうと言ってもらえたり、喜んでもらえたり、そういうところにはやりがいや達成感を感じています。
そんなグランドスタッフに向いているのは、お客様と接したいという思いがあり、前向きな素養がある人かもしれません。私もいつの間にかメンタルが強くなりました(笑)。
お客様からお叱りを受けたりもしますし、毎日色んなことが起こります。私も入社して1~2年目は先輩によく叱られました。でも、本当は焦っていてもあまり焦りが表に出ないタイプなので、逆に先輩に「もっと焦って!」って言われたり(笑)。ほかにも、イレギュラーやいやなことがあっても引きずらず、寝ると忘れるタイプなので向いていたのかなと思います。私はおしゃべりも好きだし、人に関わっていたいタイプなので、人と接するこの仕事に就いて、本当によかったと思っています。
(さぬきこどもの国から見える高松空港の滑走路)
子供の頃から憧れていた空港で働くということ。まっすぐにその目標に向かって進み、今、グランドスタッフとして神戸空港の旅客業務を支えている馬場彩夏さん。笑顔でカウンターに立ち、お客様を迎えていました。カウンター、そして搭乗口でお客様を送ったあとは、時間の許す限り外に出てグランドハンドリングのスタッフと一緒に飛行機を見送ります。神戸空港のボーディングブリッジは透明なので、飛行機に乗り込むお客様からもその姿が見えるとか。飛行機が無事飛び立ったとき、一仕事を終えたという達成感が味わえるそうです。
(文・写真:コヤマタカヒロ、2020年6月取材)
1973年生まれ。大学在学中にライターデビュー。現在はデジタルガジェットや白物家電を専門分野として執筆活動を展開。同時にスタートアップ経営者などのインタビューなども手がける。AllAboutガイドや、企業のコンサルティングなども行う。家電のテストと撮影のための空間「コヤマキッチン」も用意。