ANA福岡空港株式会社 貨物・グランドサービス部 貨物郵便課
草部早紀さん
「日本一過密な空港」と評される福岡空港では、多くの貨物を効率よく、時間内にコントロールする「貨物業務」の迅速さと正確さがなによりも求められます。
今回は、福岡県出身で進学先も就職先も福岡という「福岡大好き」な草部早紀(くさべ さき)さんの職場を訪ね、航空貨物のお仕事についてお聞きしました。
--- 空港の「貨物業務」という仕事についたきっかけを教えてください。
大学で就活を始める時は、なんとなく「制服がかっこいい。航空関係はどうだろう」という漠然としたイメージからスタートしました。大学4年生の頃、運良くANA福岡空港株式会社のインターンシップ募集を知り、応募をしました。インターンシップ募集6名の中に選ばれ、これが現在につながっています。
たった1日のインターンシップでしたが、貨物の職場で働いている人たちは、制服だけではなくやっている業務すべてがかっこよかったですね。もともと、高校の体育祭の実行委員会になるなど「裏方」の仕事を経験し、それによってみんなが喜んでくれることが好きだったんです。インターンシップという縁があり、翌年の2019年4月に入社しました。
航空機のそばで見たこともない車両を動かして、颯爽と作業するグランドハンドリング業務をイメージし入社したのですが、配属は「貨物郵便課」。貨物ターミナル内でお客さまより貨物をお預かりし、航空機の床下貨物室への搭載計画を作成する「ロードプランニング業務」などを担う部署でした。
この仕事は、知れば知るほど「縁の下の力持ち」の大切さを実感するんですよ。そして航空機のそばでの作業が多いグランドハンドリング業務と比べると、貨物郵便課の仕事は思った以上にお客さまとの距離が近いんです。
--- どのような業務があるのでしょうか。
貨物の受託や引き渡しなどの接客をはじめ、航空機の貨物室に搭載する手荷物・貨物・郵便の搭載計画を行うなど多岐にわたります。
私の職場は貨物ターミナルという場所で、福岡空港の場合は国内線旅客ターミナルや国際線旅客ターミナルとは別のところに位置しています。一般の方が足を運ばれることはほとんどないので、どんな作業をしているか想像もつかないかと思います。
貨物ターミナル内に入っていただくと、国内線旅客ターミナルでおなじみのチェックインカウンターのような受付窓口で、多種多様な貨物をお迎えしています。物流業者からメーカー、個人までお客さまもさまざまです。
(写真提供:草部さん)
———貨物の主な仕事———
(1)カウンター業務
受付窓口で接客対応をしたり、電話受付などを行う。生鮮品や精密機械、ペットなど貨物の種類は多彩。
(2)CK(チェッカー)業務
航空機の搭載計画、Weight&Balance、危険物搭載時の内容・隔離・搭載ポジションなど、すべての最終確認を行う。また、航空貨物代理店より持ち込まれたコンテナ貨物の精算業務を行う。
(3)Cコン(カーゴコントローラー)業務
小型機の搭載計画を立てたり、無線を使用し機側とやり取りを行い、円滑な搭載計画のサポートを行う。
(4)LP(ロードプランナー)業務
手荷物や貨物のすべての重量を管理し、貨物室内への搭載計画を行う。
(5)WT(ウエイター)業務
コンテナ搬入された貨物の受託、計量を行い、搭載部門の効率、搭載予定貨物の確実な輸送、搭載スペースの有効な活用、航空機の定時性、そして何よりも航空機の安全性や作業に従事される方々の安全性などを総合的に考慮し搭載計画も考えつつ、6連結ドーリへとセットしていく。
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LP業務やWT業務は経験が必要ですし、何より、仕事内容が前日とまったく同じという日はまずありえません。曜日によって物量に違いがありますし、実際に搭乗されるお客さまの人数によっても航空機のバランスは異なってきます。
その中で、いかに安全性や効率性を考え、搭載スペースを有効に活用し、定刻に航空機を出発させることができるのか葛藤する毎日です。私自身、WT業務は限られた時間の中で多くのことを瞬時に判断しなければならず、また時間に追われることもあるので、ちょっと苦手です(笑)
航空機が午前7時出発時刻だとすると、貨物の受付は1時間前に締め切られます。その間にこれらの業務が行われ、出発時間までに貨物ターミナルから機側まで搬送し、航空機への搭載を終えなければならないので気が抜けませんね。
--- 航空機が動いている間はとにかく忙しいんですね。
早番での作業は朝3時半には起きて4時半に出勤、5時からパートナー会社さんを含めて全体ミーティングを行い、前日からの引継ぎ・当日の機種変更や全国の天候状況、特別ハンドリングなど共有を行います。また、それぞれの業務にわかれた後、詳細なミーティングを行い、業務を開始します。
搬送や搭降載時にお客さまの大切な貨物が濡れないように、福岡空港の雨天時はもちろん、到着地空港の天候も考慮してビニールをかけたりするなど大事に貨物を取り扱っています。
--- モノだけでなく命を扱うのは責任も大きく、気を遣うのではありませんか?
新人時代、カウンター業務を担当していた時の話ですが、いつもいらっしゃるペット業者の方が持ち込まれた動物が、どうも元気がないように思えたのですね。どうしても気になってしまい、発送手続き中「体調が良くないように見えますが大丈夫でしょうか?」とお声をかけ、業者の方もそれを受けてその日は発送を取りやめられたのです。
後日、同じ方が窓口に来られた時に「前回は具合が悪そうな様子に気づいてくれてありがとう。助かったよ」と同僚に声をかけてくれたそうです。お客さまのお役に立てたことが嬉しかったですし、航空貨物輸送は物を運ぶだけでなく、命もお預かりし運んでいるのだなと感じました。
たくさんある貨物業務の中で、一番好きなのがこのカウンター業務です。お客さまと直に接することができ、その貨物を運ぶ先の暮らしや生活が見えるところにやりがいを感じます。預けられる動物も可愛いですしね(笑)
他にもライオンやアザラシなど動物園にいる特殊な動物や、バイク、新聞、血液、ワクチンといった私たちの暮らしに欠かせない貨物も取り扱っています。
--- 嬉しい思い出がある一方で、ミスをしてしまった苦いエピソードなどはありますか?
これも1年目の新人時代ですが、危険物貨物をお預かりした時、誤って一般貨物運賃で料金収受してしまったことがありました。お客さまに電話をかけて自らのミスをお詫びし、追加で支払っていただきましたが、お客さまにとっては気持ちのいいことではありませんよね。お客さまにご迷惑のかかるこのような精算ミスはしてはならないと反省しました。
--- コロナ禍を経て現在、空港全体の活気が戻ってきていますが貨物業務はどのように変化しましたか?
新型コロナは世界を一変させましたが、実はコロナ禍でも貨物はいつもどおり動いていましたし、職場での忙しさは増していたくらいです。多くの人が外に出なくなったとしても、人々の「生活」は動いているのだな、変わらないのだなと仕事を通じて実感しました。
そしてコロナ禍を経験したことで、貨物の重要性が社内で大きく注目されました。航空機をご利用されるお客さまが大幅に減少した旅客業務とは対照的に、貨物業務の売上は増加し、会社を大きく支え貢献したと讃えられたのです。
自分たちのがんばりが認められ、全国の空港で働く「縁の下の力持ち」にスポットが当たったようで嬉しくなりました。
--- 男性の働くイメージがある貨物業務ですが働きやすさなどはいかがでしょうか。
貨物やグランドハンドリングというワードは、男性が作業しているイメージがありますよね。入社時、貨物郵便課に配属された同期は4名いて、男性3名・女性1名。全体的にみても女性は少ない職場ですが、少ないから働きにくいかといえばそうではありません。男性女性関係なくどの業務も担いますし、チームワークがよくみんな仲が良いです。
貨物郵便課は接客業務の他に外で行う作業もあります。以前は旅客ターミナルで働くグランドスタッフの制服を来て業務を行っていましたが、グランドハンドリングの制服も貸与され、日々の業務内容に応じて制服を使い分けることができます。インターンシップ時に憧れた制服を着ることができて嬉しかったです(笑)
また、時短勤務などの会社制度も整っており、育休後職場復帰され仕事と子育てと両立されている方も多く、働きやすいと感じます。ここ最近では男性も積極的に育休制度を利用するなど、女性だから男性だからという性差を感じることはありませんね。
--- お休みの日はオン・オフしっかり分けてお過ごしですか。休みの日もつい仕事のことを考えてしまったりしませんか?
私の休日は「ソロ活」が多くて、例えば駅ビルなどにぶらりと買い物にでかけたり、ひとりで旅行したりしてリフレッシュしています。平日に休むことが多くのんびりと過ごしていますが、将来目指す資格のために、今後は勉強の時間も必要かなと思っています。
--- 将来の目標はありますか?
いずれは「ANA国内貨物郵便本部インストラクター」になりたいと考えています。社内インストラクターを教育する資格で、福岡空港だけでなく全国の空港でインストラクターの育成を行っています。そのためにはまず業務経験を積んでいく必要があり、日々の経験がすべて知識と繋がっていきます。
ANA国内貨物郵便本部インストラクターの仕事は、全国の空港という常に新しい場所へ行き、教育を通して新しい景色を見ることができます。とても難しい資格ですが、この仕事で活躍する先輩が身近にいらっしゃるので、彼女が私の今の目標であり憧れですね。
--- これから空港の仕事を目指す後輩たちにメッセージをお願いします。
空港での仕事は、この仕事に就かないと経験できないことも多いです。ドラマや実際に空港を訪れた時の経験など、些細なきっかけでいいので少しでも「面白そうだな」と思ったら興味を持ってほしいです。
私は入社するまで貨物の仕事について何も知りませんでしたが、まっさらだったからこそ仕事が楽しいのです。貨物は意外に接客も多く、空港だけでなく物流、ひいては人々の暮らしを裏で支える大切な仕事です。
そして、仕事をするうえで大事なのは、分からなければ質問をするといったように「声を上げる素直さ」があることです。この業界の仕事はバトンを繋ぐように必ず一人ひとりの仕事が繋がっているので、チームで仕事をするという意識、周りのことを気にかける意識がすごく大切です。仲間の変化を感じたら「大丈夫ですか?」と真っ先に声をかけることができるような仲間想いな人と一緒に働きたいですね。
(文:吉田暁子、写真:岩川芳信)