株式会社AIRDO
田宮 優さん
齊藤 梨紗さん
(写真左から田宮さん、齊藤さん)
「北海道の翼」として地域貢献を掲げる航空会社、株式会社AIRDO(エア・ドゥ)でグランドスタッフ歴2年目の齊藤梨紗(さいとうりさ)さんと、齊藤さんたちに指示を出す8年目の田宮優(たみやゆう)さんに伺いました。社会人生活をコロナ禍にスタートした齊藤さんと、日常業務の全体の指示と新人教育を担う田宮さんに“混雑していない羽田空港”での奮闘ぶりを伺いました。
空前の逆風下にあった航空業界でエア・ドゥは、2021年3月期決算で最終損益が過去最大の121億円の赤字に転落。相次ぐ減便で運航便数は前年度から37%も減りました。コスト削減で初号機と2号機のボーイング767-300ER型2機を早期退役させ、21年5月には「九州・沖縄の翼」の株式会社ソラシドエアと持株会社を設立する経営統合を発表するなど、毀損(きそん)した財務基盤の早期回復を目指しています。
--- グランドスタッフのお2人は運送本部東京空港支店で運送サービスグループの所属です。
齊藤さんの普段のお仕事は?
齊藤:私は昨年2020年4月に入社しました。主な業務は「カウンター業務」で、旅客の搭乗手続きをし、カウンターで航空券を購入される方の予約をとり発券したり、払い戻しをしたり、便を変更したりしています。もうひとつの「ゲート業務」は、搭乗の案内・誘導、出発では改札機や搭乗口の上にある「何時発どこ行き」のモニター表示を準備します。到着では、例えば車いすのお客さまは搭乗口を降りたところから到着ロビーや駐車場までご案内します。
--- 勤務シフトやカウンターを何人で担っているんでしょうか?
齊藤:4勤2休で早番2日、遅番2日、お休み2日です。朝は午前5時からで夜は23時まで。カウンター業務は2~3人で、ゲート業務の出発便は少なくて2人、多くて3~4人ですね。
--- 齊藤さんは今も1番の若手ですか?
齊藤:2021年入社の後輩が入ってきました。昨年入ったばかりの私も、今や先輩です(笑)。
--- 齊藤さんは「外の人」で、田宮さんは空港利用者には見えない「中の人」ですね。
田宮:はい。私は2013年4月入社で8年目になります。今は「中の人」になりました。「旅客責任者」はお客さまと接するカウンターではなく、バックオフィスにあるデスクにて無線で各所に指示を出し、便全体をコントロールしています。私も早番と遅番シフトと4勤2休は同じです。
(無線で連絡を受け、指示を飛ばす)
--- どのような指示を出すのですか?
田宮:空港や飛行機の情報は、旅客責任者である「デスクコントローラー」に全て集約されます。他の係員や他の航空会社から入った情報を担当者に伝えたり指示を出したりします。お客さまが多いとか少ないとか、天候や機材の変更情報なども。判断に迷う場合は、規定を見ながら責任者である私が最終的な決定を下します。
--- グランドスタッフを目指したきっかけは?
齊藤:私は航空業界を志したというよりも、「エア・ドゥ」に惹かれて入りました。大学は法学部で法律関係や法務の仕事がしたいと就活を行いましたが、行く度に何か求めているものと違うなと思い、本当にやりたい仕事が分からなくなっていました。出身が札幌なので、就職活動のインターンシップや面接で東京に行く時は、いつもエア・ドゥを使っていました。CA(客室乗務員)さんやグランドスタッフの方の働いている姿がかっこよく見えて「この会社なら私もやりがいを持って楽しく働けるのでは」と思ったのがきっかけです。
私は総合職の枠組みで入ったので、いろいろな部署を経験できるのが魅力的ですね。最初は法務部だけでやっていきたいと思っていましたが、今は興味があること、楽しいと思えることをいろいろとやってみたいです。地元がすごく好きなので、日本の大きな会社に入るより北海道に何か還元できる会社に入った方が人生を振り返った時に「自分はこれがちゃんとできた」と誇りに思えるのではないかなと。
--- 航空業界への興味はなかったのですか?
齊藤:旅行はもちろん好きです。大学受験で札幌から東京に来た18歳の時に初めて1人で飛行機に乗りました。札幌に戻る時、保安検査の締め切り時間ぎりぎりに空港へ来てしまい、間に合うのかと冷や汗をかきました。エア・ドゥの男性係員の方が検査所から一緒に搭乗口まで案内してくださり、「まだ間に合うから大丈夫ですよ」と優しくしてくださって。こういう社会人になりたいと思いました。
田宮:私がグランドスタッフになりたいと思ったのは高校生の時で、きっかけは母でした。英語の授業が好きで英語を生かしたい、人と接する仕事がしたいと漠然と思った時に、地元の山形県寒河江市で小学校教諭している母が「先生に就いていなかったら、グランドスタッフの仕事がしたかった」と言っていたんです。それで興味を持って調べてみたら、素敵な仕事だったのでこの道に進もうと思いました。
英語や国際学の勉強ができる大学に進み、同じ夢を持った友人がたくさんできて情報交換する中でも夢が膨らみました。最初に内定をいただいたのがエア・ドゥで、アットホームで優しい方が多いと感じたのが決め手でしたね。
--- 他の乗り物もある中で、飛行機を選んだのはなぜですか?
田宮:やはり飛行機は特別感がありますし、ワクワクした気持ちになります。今もプライベートで展望デッキに行って飛行機を見るとワクワクします。新人時代の訓練中はお昼休みに同期とデッキでお弁当を食べていたので、今でもデッキに行く度に初心に返ります。
--- 強く印象に残った出来事はありますか?
齊藤:3カ月の座学研修を終えた2020年7月に、カウンターの前の立つ「ロビー業務」をしました。その時はまだ制服が届いておらずスーツ姿に腕章と訓練生バッチをつけて、OJT(実際の業務で行う教育訓練)で先輩が隣にいる中で空港のロビーに立ちました。すごく緊張していて、最初のお客様にお声がけをしたら、「あなたみたいな新人に対応されたくないの」とピシャリと言われてしまいました。
お1人で来られた方だったので、もしかしたら急いでいて、制服ではないスーツを着た訓練生に話しかけられて、時間がかかるのが嫌だったのかも…と今なら思いますが、あの時はカウンターの裏に入って泣きましたし、心が折れました。でもそこで、「早く業務に慣れよう!」と決意しました。
--- 逆にうれしくて思わず笑顔になったことはありますか?
齊藤:到着業務で視覚障害の方を到着ロビーまでご案内する時、出身が札幌で地元の話で盛り上がりました。別れる時に「楽しかった。ありがとうね」って言ってくださった時はよかったと思います。チェックイン業務はできて当たり前でもあるので「ありがとう」と言われることが少ないので、そうしたひと言がうれしいですね。
弊社ではエア・ドゥキッズという満6・7歳(ご希望により11歳まで)のお子さまがお1人でご搭乗をする際にサポートをするサービスがあるのですが、そういったお子さまのお客さまには「夏休みに何した」といった話や「何が流行っているのか」と自分も子どものころをも思い出しながら会話をするのが楽しいですね。
田宮:齊藤さんのようにカウンター業務やゲート業務で、お客さまから直接お褒めの言葉や感謝の言葉をいただくのがこの仕事の醍醐味です。年数を重ねて5、6年目ぐらいから「中の人」になって、その醍醐味が味わえなくなってしまいました。責任も大きくなって、やっていけるのかと不安に思うこともありました。
でも最近は、後輩の成長を見るが楽しいんです。大丈夫かなと気にかけていた後輩が成長を遂げた場面に遭遇したり、お客さまから素敵なお褒めの言葉をいただいたりしている光景を見ると、よかったなと思います。母心じゃないですけど、やりがいが以前とは変わってきました。
--- 指導する立場だと厳しく言わなければいけないこともありますね。
田宮:安全に関わることや、お客さまにご迷惑をおかけしている時には心を鬼にして指導します。ただ、もちろんフォローもしますよ。私と同じ年次の人が厳しい指摘・指導をしたら、私がフォローにまわります。私はどちらかと言うとフォローする側の方が多いですかね。
--- 仕事で心がけているのはそうしたフォローですか?
田宮:理不尽なトラブルになっている場合には、「あなたは悪くない。誰がこれを受けてもそうなったので気にしないで」と言っています。
--- 入社8年目でも苦手なことはありますか?
田宮:同時進行で複数のことをする時ですね。指示を見届けている最中に別の何かが起こる。出発したはずの2便が飛び立つ前に機材整備で戻ってきて、今後の方針を考えなければいけない。同時にカウンターでトラブルがあり判断を委ねられる。同時多発に何かが起こると余裕がなくなって、自分はまだまだだなって思いますね。トラブルやイレギュラーは、続く時は続くんですよね…。
バックオフィスからカウンターへの出入口に(北海道神宮の)お守りがあるので、必ずお詣りしてから業務に臨んでいます。
--- もう毎日がチャレンジングですね。
田宮:はい、旅客責任者としてのスキルをもっとアップして経験を積みたいと思っていて、実際に教育にも携わっていて訓練教官もしています。今の新人たちは入社してから2年間ずっとコロナ禍で、混雑している空港での業務経験がないんです。新型コロナウイルスが終息した後、きちんと対応できるように事前に教育できればと思います。
--- 業務ではどんなやり取りがありますか?
田宮: 2020年5月に座学の担当を行いました。(最初の緊急事態宣言で)コロナ禍で出社できず、会議室と自宅をつないだリモート座学です。当時入社1年目だった齊藤さんは1番質問してくれて、今後が楽しみな印象を受けました。グッドクエスチョンが多かったです。
齊藤:逆に質問し過ぎと思われていないかなって……。
田宮:内容を理解していないと質問は出来ないですからね!きちんとテキストを読み込んで、自分なりに考えて質問しているのが伝わってきました。リモートなので「分からない」という雰囲気を察することができないので、齊藤さんの反応はありがたかったですね。
--- シフトに入って直接指示したり指示を受けたりする場面はありますか?
齊藤:田宮さんとは所属グループが違うので、業務で直接接することは実はあまりありません。(早番と遅番の引き継ぎで)勤務時間が重なる時、田宮さんがいつも笑顔で丁寧に引き継ぎしてくださるので憧れます。
田宮:ありがとう。以前は休暇調整で他のグループに行くことがありましたが、今は新型コロナウイルス対策でグループをまたぎません。早番と遅番の入れ替わりでオフィスが密にならないように、仕事が終わった人は早く退社します。
--- コロナ禍のイレギュラーな状態が、日常になっているのですね。
齊藤:今年(2021年)のお正月も減便運航 でしたが、私はすごく混んでいる!と思いました。1日中、空港を走り回ってヘトヘトだったのに、先輩方が「やっぱり今年は空いていたね」と言っていて、これ以上混んだら私はきちんと仕事を全うできるのかと心配になりました。
自分が空港を利用していた時はもっと活気あるイメージでしたが、カウンターに1日2時間入って、3人ほどしかお客さまがいないことがありました。本当にこの状況がずっと続くのかと心配になりますね。目の前に全然人がいないんです。教わったことを実践する場がないので、いまひとつ業務に自信が持てず、現場の力がつきません。空席待ちが出るような満席便も、年末年始に1、2便ぐらいしか経験していません。
--- チームワークややりがいを感じる瞬間はどんな時でしょう?
齊藤:ゲート業務の出発業務の時に感じることが多いです。1便を飛ばすために整備士やグランドスタッフでそれぞれの自分の業務を全うします。なかなか搭乗口にいらっしゃらないお客さまを遠くまで探しに行って、お客さまと一緒に搭乗口まで走る。1秒でも遅れることなく定時出発できるように頑張っている時に、チームワークを感じます。
田宮:ターミナルから離れたオープンスポットの到着便の場合は、バスでターミナルまでお客さまを送った後、飛行機は駐機場に向かうんですが、到着ロビーで「機内に忘れ物をした」とお客さまからご申告があることもあります。 飛行機はロビーから離れた駐機場で、私たちグランドスタッフも同じくロビーなので、すぐ向かうことができません。そういった場合、機内に整備士がまだいることがあるので、デスクコントローラー経由でステーションコントローラーから整備士に連絡して探してもらうんです。整備士がオープンスポットから車で、近くの搭乗口まで忘れ物を持ってきてくれて、それを私たちが受け取り、走って戻り到着ロビーのお客さまにお返します。無事お手元にお返しできた時は、これこそチームワーク!と思います。
--- いいお話ですね。オフタイムは何していますか?
齊藤:私は基本的にインドアで、ネットフリックスで韓国ドラマを見たり、お弁当作りが好きで、料理を作り置きしたりします。実家でよく料理をしていたこともあり、苦じゃなく結構楽しいです。
田宮:私は筋トレですね。デスクコントローラーは座ったままのことが多いので万年運動不足なんです(笑)。社外の友人4人とリモートで21時からYouTubeで動画プログラムを1時間一緒にやっていて、コロナ禍でも太りませんでした。あと、花を飾るのが好きで、先日初めて陶芸教室で花瓶を作りました。焼き上がりが来月(10月)で、どんなお花を飾ろうかと今から楽しみです。
--- 今は採用が難しいですが、グランドスタッフを目指す方にひと言を。どんな人に来てほしいですか?
齊藤:私のように専門学校に行かず、普通の大学生でも目指せる職種です。英語が得意じゃないから入れないと偏見を持たないで、チャレンジしてほしいですね。チームワークで成り立つ仕事でもあるので、他の人のミスでも他責思考にならずに、その場で自分は何できるかを考えられる人が向いていると思います。
田宮:私も就職活動はすぐに決まらず苦労して、母が「1回目(新卒)じゃなくていい」と言ってくれました。社会人経験を積んで、既卒で何回もチャレンジしてもいいと。肩の荷が下りてエア・ドゥの試験に行ったら内定をいただきました。厳しい採用状況が続きますが、チャンスは巡ってくるので、なりたいという自分の気持ちを大事にしてほしいです。
※新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないため、エア・ドゥは総合職、整備士、CA、グランドスタッフの22年度入社の新卒採用を見送っている。
(2021年9月取材)
(文:小島昇、写真:関口アキラ)
フリーランス記者・編集者。東洋経済新報社「会社四季報」センター記者として上場会社を取材。インプレス「Web担当者Forum」でサイト担当者向けニュースを、アスキー「ASCII STARTUP」でスタートアップの紹介記事を執筆。CNETにも。毎日新聞社で経済部記者として電機メーカーや通信業界、東京証券取引所、総務・経産・国交省などを取材。ニュースサイトの編集・編成10年を経て2019年9月退社し独立。
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1989年生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、東京農業大学短期大学部で栄養士を取得。カフェのメニュー開発や和食、フレンチの勤務を経て、大手料理教室会社に勤務。撮影・編集・企画・レシピ開発など幅広く担当し、2017年独立。調理、レシピ開発、スタイリングから写真撮影、動画撮影・編集、WEB制作など幅広く行う。
http://se-akira.work/