空港の裏方お仕事図鑑

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ヘリコプターと向き合い「かゆいところに手が届く」整備を

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長
我妻 茜さん

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

みなさんは、ヘリコプターの機体をじっくりと見たことがありますか?
小回りの良さを活かして縦横無尽に飛び回り、救急医療や物資輸送、報道など、様々な場面で社会を支えています。間近で見ると、「こんなに小さな機体で安全に空を飛べるなんて!」と、不思議に思えてくるかもしれません。

今回は、「どうして空を飛べるのだろう?」という幼い頃の疑問を原点に航空整備士となり、現在は機体整備の責任者としても活躍している株式会社ジャムコの我妻茜(わがつま あかね)さんに、知られざるヘリコプター整備の仕事について伺いました!

機体の"違和感"まで、しっかりと拭える整備士を目指して

--- ヘリコプター整備士の方にお会いするのは初めてです。どのようなお仕事をされているのですか?

2008年に入社して、今はメンテナンス統括室回転翼(かいてんよく)課の担当課長として働いています。私が主に担当しているのは、定期的な検査などでドックインするヘリコプターの点検・整備を行う仕事です。

ここ、仙台にある弊社拠点では航空機の整備事業として、海上保安庁の保有するシコルスキー社製のS-76という機体などの整備を行っています。ここには、全国で運航されている機体が検査のために飛んでくるんですよ。

私は機体整備の責任者である機付長(きづきちょう)として、お客さまから不具合や違和感について聞き取り、的確な整備でそれらを解消してお返しできるようにしています。

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

(機体の上部で作業をする我妻さん)

--- 検査について、詳しく教えていただけますか?

ヘリコプターは飛行の安全性を確かめるための「耐空検査」を1年ごとに受ける必要があります。自動車で言うところの車検ですね。

お客さまから聞き取った内容をもとに、不具合などを解消するためにはどのような整備(処置)を行うかを考え、不具合の処置方法を記載し現場のみんなへ指示しています。
その後、機体をバラバラに分解して、部品ごとに点検・整備し、もう一度組み立て、テストフライトで問題がないことを確認し、ピカピカに磨き上げてお客さまに納めるという流れです。

検査を終えて納品する日はあらかじめ決まっており、途中でどんな整備が必要になっても延ばすことはできません。新たに調達しなければならない部品もありますし、複数の機体を同時に整備することも多いので、いつも時間との闘いですね。

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

(ツール(工具類)は整備士の命。大切に扱い、使い込んでいます。)

--- 慌ただしい日々の中でも、大切にしているのはどんなことですか?

私がいつも心がけているのは、「かゆいところに手が届く整備」ですね。
お客さまから機体をお預かりする際には、飛行に直接影響がないような小さな違和感まで、抜かりなく聞き取るようにしています。
例えば、ドアの「建付け」のようなことです。壊れているわけではないけど、ドアが閉めにくいといったようなことなど、小さなことでも細かくヒアリングするようにしています。
機体によっては同じ不具合を長く抱えていることもあるので、原因を突き止めて必要な整備をし、テストフライトで解消されたことを確かめられた時には、大きなやりがいを感じます。

今までに一度だけ、お客さまに機体を納める時に、「どうせならここも直してほしかったな」と言われたことがありました。それがとてもショックで、もうそのようなことがないように、ヒアリングする場以外でもコミュニケーションを取り、話しやすいような雰囲気を作りながらお話を聞くように努めています。

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

(“かゆいところに手が届く”。そんな整備を心がける我妻さん)

--- 最難関資格の「一等航空整備士」を女性社員で初めて取得されたそうですね。

はい。この仕事に就こうと思った頃からの目標でした。
一等航空整備士の試験は学科試験と実技試験があり、猛勉強した甲斐もあり合格しました。ただ、試験当日は試験官の方に、本当に「けちょんけちょん」にされたんです(笑)。まだまだ勉強や知識が足りない所があることを痛感させられ、「試験に合格して終わりではない。もっと勉強しないと!」と、気を引き締める機会になりましたね。

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                我妻 茜さん

(最高峰の資格を取得してもなお「勉強不足を痛感した」と言う我妻さん)

幼い頃からの好奇心を胸に、大学中退で航空整備の道へ

--- より高みを目指されているのですね。それにしても、なぜヘリコプターの整備士になろうと思ったのですか?

きっかけは小学生の頃、向井千秋さんがスペースシャトル「コロンビア号」に宇宙飛行士として搭乗するニュースを見たことです。コロンビア号が打ち上げられるのを見て、「どうして空を飛べるのだろう?」と、スペースシャトルや飛行機が空を飛ぶ仕組みに興味を持ちました。
だって、不思議ですよね、金属の塊が空を飛ぶというのは。原理も仕組みも理解した今になっても不思議なくらいです(笑)。

--- そこで「宇宙飛行士になろう」とは思わなかったのですか?

最初は思っていました。でも、高校の先生にアドバイスを受けたんです。「宇宙飛行士は職業というより研究者なんだよ。君たちの時代には、宇宙飛行士でなくても宇宙旅行に行けるようになる。別の仕事を見つけたほうがいいんじゃないか」と。
なるほど…と思って、別の道として、デザイン工学を学ぶ大学に進みました。ただ、ひたすらデッサンをしてアイデアを絞り出す日々に、自分の限界を感じてしまったんですよね。そこでもう一度、子供の頃からの「どうして空を飛べるのだろう」という想いに立ち返りました。
航空整備士に絞ったのは、「手に職をつけたい」という想いが強かったことと、自分で乗って操縦するパイロットになりたいというよりは、構造を知って飛ばすことに興味があったからです。大学は3年生の時に中退し、航空整備士を養成する専門学校に入り直しました。

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                我妻 茜さん

(航空整備士としての歩みを語る我妻さん)

--- 思い切った決断でしたね。親御さんも驚いたのではないですか?

はい。母には「あと1年頑張れば卒業できたのに」と泣かれてしまいました。

--- 専門学校に入って、すぐにヘリコプターの整備士を目指されたのですか?

最初は固定翼、つまり飛行機の整備の勉強からスタートし、1年生の途中で分科してコースを選ぶんですが、どうしようかと悩んでいた時に、同級生からたまたまジャムコの存在を教えてもらったんです。
もともと大型機よりも小型機に興味がありましたし、私の地元は山形県なのですが、ジャムコは仙台だと聞いて、隣の県なら近くていいなとも思ったんですよね。早速、職場見学にも行かせてもらうことになりました。当時からとても雰囲気が良く、とにかく働いている先輩方がとても楽しそうで、心から「ここに入りたい」と思いました。
ヘリコプターの整備士を本格的に目指すようになったのは、その頃からです。入社には2等航空整備士の資格取得が必要だったので、そのコースを学ぶことにしました。
ちなみに、見学の時に会社説明をしてくれた先輩には、いまだに「私が誘った」と言われます(笑)。本当に良い職場だと思います。

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                我妻 茜さん

(入社前から今の職場の良さに惚れ込んでいたと言います。)

--- なるほど。大型機よりも小型機に興味を持ったのはどうしてですか?

一つの機体全てを自分で整備したいと思っていたからです。大型機はとにかく大きい分、整備もそれぞれの部門で専門性を持った整備士が分業で行います。客室なら客室、足周りの人は足だけということが多いんです。
その点、小型機は一人で全体を見られるのが魅力ですね。責任重大で大変さもありますが、航空整備の面白みが詰まった仕事だと思っています。

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

(忙しい中でも、後輩に笑顔でアドバイスを送ります。)

先輩の「得意を伸ばそう」に励まされた若手時代

--- 充実されていますね。ただ、入社したての頃は苦労も多かったのでは?

そうですね。入社後しばらくは、ひたすら部品のクリーニング(洗浄)をするのが仕事でした。
整備はクリーニングが一番の肝(きも)なんです、汚れていると不具合が発見できないこともあるので。部品は数えきれないくらいたくさんあり、来る日も来る日も部品を洗い続け、心が折れそうになることもありましたが、これもチームとしての整備に必要な仕事なんだと思って取り組みました。

--- 入社当時、女性整備士は今よりも少なかったと思います。大変ではなかったですか?

はい。職場で久々の女性整備士だったので、先輩方も戸惑われていた面はあると思います。力の面など、どうしても男性にかなわないところもありましたが、先輩には「不得意な所はチームで補い合える。できないことを何とかするよりも、得意なところをどんどん伸ばしていこう」と励ましていただきました。
あとは男女の区別をされることなく、しっかり育ててもらった印象です。

--- 入社後で印象に残っている出来事はありますか?

トラブルなどは時間が経ったり解決すると忘れてしまうタイプなんですが、印象に残っていることは、配属されて3日目の時に、頭からペンキを被ったことですかね(笑)。
機体の塗装の手直しを任された時に、足をすべらせてしまって。前髪やジャンパーに白いペンキがべったりとついてしまったので、先輩が拭いてくれました。久しぶりの女性整備士として注目されていたのに、ミスをしてしまったので、余計に恥ずかしかったですね。

次なる挑戦も見据え、きわめ続ける航空整備士の道。

--- そんな時代も経て、今、ご自身で成長を実感するのはどんな時ですか?

機付長としてお客さまとやり取りをさせていただいている時です。経験を重ね、お客さまの話を深掘りして聞けることが増えてきたと思います。的確な整備をするためには最初の聞き取りが何よりも肝心なので、お客さまの何気ない言葉から「あ、あそこのことを言っているんだな」と、ピンと来るようになったのが自分でも嬉しく、一人前になったなと思いますね。

株式会社ジャムコ メンテナンス統括室回転翼課 担当課長<br />
                我妻 茜さん

(航空整備士としてのさらなるステップアップを見据える我妻さん)

--- これからチャレンジしたい目標はありますか?

いずれは固定翼(リージョナルジェット機)の整備をやってみたいです。必要なライセンスがあるので、オフに少しずつ勉強を進めています。ヘリコプターの整備もまだまだ極めたいのですが、航空整備士として、ヘリコプターとは別のステージでもチャレンジしてみたいです。

(2024年11月取材)

(文、写真:佐々木佳)

Jamco公式Youtubeチャンネル
こちら、ジャムコと申します - YouTube

ライター:佐々木 佳(ささき・かい)

宮城県仙台市を拠点に活動するフリーライター、インタビュアー。地方新聞社の記者、社会福祉法人の広報などの経験をもとに、ロジカルさと人肌の温もりを両立した記事制作を心がけています。
ポートフォリオ:https://www.resume.id/sasakikai
note:https://note.com/sendai30ji/

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