ANA成田エアポートサービス株式会社 柏木秀隆さん
株式会社ANA Cargo 檀杏奈さん
(写真左から柏木さん、檀さん)
新型コロナウイルスのワクチンを載せた航空機の第2便が2月21日、成田国際空港に到着しました。全日本空輸(ANA)の貨物専用便からワクチンを搭載したコンテナが貨物上屋(うわや)に運ばれ、トラックに積み替えて空港を出発する様子が初公開され、ニュースになりました。
ANA成田エアポートサービス株式会社(以下、NRTAS)の柏木秀隆(かしわぎ ひでたか)さんは、「とても誇らしく感じた」と言います。株式会社ANA Cargoの檀杏奈(だん あんな)さんも、「まさに自分が勤務する建物の正面で報道公開された出来事でした」と話してくれました。
今回は、ANAグループで異なる会社に勤務しながらもチームワークを発揮しているお二人にお話を伺いました。NRTASカーゴサービス部の柏木さんは、貨物の搭載や取り降ろし、引き渡しのハンドリング業務を行っています。一方、ANA Cargoオペレーション部門 成田ウェアハウスオペレーションセンター 貨物サービス部の檀さんは、積み込み作業の進捗を管理しています。
--- 職歴と普段どんなお仕事をされているか教えてください。
柏木:NRTASに入社4年、貨物専用機を担当するカーゴサービス部で2年目です。貨物専用機のボーイング777Fなどの機側(機体のそば)で貨物を載せたり降ろしたりするハンドリングをしています。作業者として入る時と、指示を出す責任者として入る時があります。最終的に貨物搭載書類にサインをして機長に渡すところまでを担当します。
成田空港は6時に滑走路がオープンするので、一番早いシフトは午前5時半から。勤務時間は平均1日8時間程度で3~4機の航空機を扱い、途中1時間の休憩を挟みます。休みは平均して週1~2日です。
檀:ANA Cargoで「フライトコントロール」と「スーパーバイザー」をしています。フライトコントロールは航空貨物を載せるすべての便の作業進捗を管理し、スーパーバイザーは上屋への輸出貨物の搬入から航空機への搭載を調整する仕事です。
1日の流れとしては午前午後にシフトが分かれていて、午前を担当した場合は貨物を載せた午前便すべての貨物の受け付けからビルドアップ(積み付け)の進捗を管理します。一つ一つパレット(荷台)に積み付けた貨物を計量し、バランス(重心位置)を考慮して航空機の貨物室内での配置を決めています。早い勤務は午前5時からで、遅い勤務は午後6時から翌日の午前3時まで。4日勤務して2日休みのシフトです。
--- お二人の会社の仕事は、どんなふうに関係しているのですか?
檀:私の所属するANA Cargoは、お客様が乗る旅客機に貨物を載せる「パックス(PAX)便」と貨物専用機の「フレーター(Freighter)便」を取り扱っています。
パックス便についてはANA Cargoでは航空機のバランス調整業務を行わず、旅客機の総重量予測などを行っているNRTASの部署と連携して作業します。一方、貨物専用機のフレーター便ではANA Cargoに資格保持者がいるので、貨物のバランスを確認して進捗を管理しますが、最終的にNRTASで貨物機を担当する柏木さんの部署に、ちゃんと情報伝達できているかまで確認します。
--- この1年、旅客は新型コロナウイルスの影響で激減しましたが、貨物はどうですか?
柏木:物量が圧倒的に増えました。業務も増えていて、正直なところ疲れを感じることもあります。でも先日、新型コロナウイルスのワクチンが成田空港に到着したニュースが流れた時、大げさかもしれませんが自分たちの仕事は日本国民のためになっていると感じて、とてもやる気につながりました。
--- ワクチンが成田に着いたニュースについて、家族や友人から何か反応はありましたか?
檀:(ニュースは)私の会社の目の前で撮影されていました。親は(運んだのが)ANAだと知っていましたが、まさかあのニュースが私の勤める職場前の様子だとは認識していなくて、「あなたの会社だったの!?」と驚かれました。
柏木:成田で貨物の仕事をしていると家族は知っているので、電話で「あなたがやっているところなの?」と聞かれました。「そうだよ」と答えたら「すごいね!」と言われました。
檀:貨物が増えたことで言えば、お客様を乗せずに貨物だけを載せる旅客機を使用した臨時便が設定されたり、今まで就航していない空港へ、大きなトリプルフレーター(ボーイング777Fの貨物専用機)を就航させたりとこれまで以上に機動的なことが行われた1年でした。機械部品でも重たい貨物が続いたりして、これまであまり行わなかった仕事を、チームワークで何とかこなしたという達成感があります。
檀:新人の頃、スーパーバイザーの業務で出発1時間前を切って「荷崩れをした」と連絡を受けました。荷崩れでパレットの枠から出てしまうと隣の貨物に干渉してしまうので、現場から「どうするんだ!」と強く迫られて、「どうしよう…」ととても焦りました。
--- 柏木さんも「どうするんだ!」って檀さんを詰めるんですか?
柏木:いやいや、僕は「どうするんだ!」なんて言わないです(笑)。
檀:積み付け作業は柏木さんたちとはまた別のチームで、職人気質でベテランの方が多いんです。その時は幸いにも貨物へのダメージは発生していなかったので、ある程度パレットから貨物を降ろして、一部を少し抜き取ってから再計量して搭載しました。ただ、荷崩れしたパレットを上屋に戻して直しても、それをまた同じ便に搭載するのか、別の便に変更するかの判断を迫られます。航空機は定時出発が絶対ですから、間に合うか間に合わないかの采配は日常茶飯事です。
その出来事で学んだことは、どの駐機場(スポット)に航空機が停まっているか、すぐに貨物を持って行ける距離かなどを総合的に素早く判断すること。遠いスポットなら搬送にも時間がかかるので逆算して判断をする。常に自分が扱っている便の進捗を見て、的確な指示を出さなくてはいけないんだなと気づき、成長することができました。
柏木:滑走路は6時からオープンして24時でクローズなので、出発作業は23時半まで。到着が遅れた機体をその後出発便として使用する場合、到着便貨物の取り降ろしが終了したら、新たに貨物を積むのですが、「あと30分でクローズだ!」と事前に後工程を予測した対応が必要になります。離陸自体は24時まで可能ですが、作業時間的に間に合わないと思っても作業人数を増やしたりして、何とか定刻出発をめざします。B6フレーター(ボーイング767F)の作業時間は約90分、大型のトリプルフレーターは約120分と機種ごとに違うので、後工程を考慮しながら作業の展開を考えていくのが大変です。
--- パレットの貨物はネットで固定されていると思いますが、どういうものを荷崩れだと判断するんですか?
檀:目視で傾いているのが分かります。海外から到着した貨物の中には、成田を経由して別の目的地まで運ぶものもあります。成田で機体から降ろしたパレットを、そのまま次の便の飛行機に移動させる時に崩れやすいので注意が必要です。「あの空港から来たら要注意」みたいな場所はありますね(笑)。
--- 今の仕事のどんなところが好きですか?
柏木:小さい頃から好きだった航空機が世界中に貨物を運んでいる。自動車や動物、今だとマスクが到着してくる。日本各地に送る貨物を扱っているからこそ、実感することができます。それを仲間とのチームワークで連携して、世界に届けることがすごく楽しいです。
--- 「自動車」というのは部品などを運ぶのでしょうか?
柏木:自動車は完成品もあります。トリプルフレーターなら複数台積めるんです。海外の貨物航空会社の業務も受託していて、僕が責任者を務めるあるエアラインでは1回に10台以上の完成車が運ばれてきました。ほかに動物だと馬、犬、猫、ネズミ、アシカ、カンガルーを運んだこともあります。
どこかのチームが積み終わっていなくて出発時間がギリギリの時はみんなでヘルプに入り、大人数で定刻出発をめざします。無事に終わって定刻に出発した時は、「チームワークってこれだな!やりがいってこれだな」と感慨深いです。追い込まれた時に仲間とやり遂げることができて「やったー」みたいな。
檀:私たちの職場では、作業の配置人数は決まっているので急に増やすことができません。フォークリフトに1人、情報端末への入力者1人、積み付け作業者4人で、パレット1つに6人で20分~30分の作業です。ただ、私たちの作業が遅れると柏木さんたちの作業が遅れてしまいます。また、出発が1分でも遅れた場合、きちんと記録に残さないといけないので、貨物が原因で遅れないように頑張っています。
柏木:もし時間に間に合わないと思った時は、出番が終わった人を呼んで、「何人か出してもらえると時間内に間に合い、安全に定刻で出せます」と現場から提案します。作業者の時も無線を聞いているので、「この便がやばいです。誰かヘルプに来られますか?」と無線から聞こえてくるので、「この作業が終わったら行きます」と連絡します。そして、「みんなで助けに行くぞ!」となるんです。
檀:貨物の積み付け指示のプランと、積み付けた貨物を飛行機にどう乗せるかのプランがあり、そのプランを基に実際に作業してくださるのが柏木さんのNRTASの業務で、上屋全体の進捗管理やプランを作る業務がANA Cargoの領域です。
こちらの進捗で問題が起きれば、柏木さんのチームに連絡します。本当に毎回、お互いに助けあっています。ANA Cargoでどうにもならないことを機側で作業したり、確認していただいたりして、何とか航空機を定時に出している。本当にチームワークは欠かせません。
柏木:逆にNRTASで「どうしたらいいんだろう」という案件が発生した時はANA Cargoのプランナーに確認して指示を受けます。「こう搭載してください」という情報を基に作業するので、そういったことに会社を超えたチームワークを感じます。このポジションでは積めないけれど、こちらなら大丈夫だと提案してプランを変えてもらうこともあります。
檀:パレットに積み付けた貨物を動かしたあとに、パレット上の貨物のバランスが不安定になってしまうことがあったり、想定外のことが起こります。
柏木:「今から始めます」から「無事に終わりました」の連絡だけで済むことはまったくないですね。「このパレットが機側に届いていません」など、常に何かしらあるので。
--- 貨物を無事に運ぶための連携ですね。ところで、この仕事をするきっかけは?
柏木:実家が福岡空港の近くで、小学生の頃からよく空港に連れて行ってもらいました。展望デッキから航空機のそばで作業する車を見て、自分もそれに乗ってグランドハンドリングをいつかしたいと思ったのが、この仕事を選んだ理由です。小学4年と6年の夏休みに「空港教室」という空港のお仕事を見学できるツアーに参加して、羽田空港にも見学に行きました。
僕は姉と妹の3人きょうだいで、姉は整備士で仙台空港、妹はグランドスタッフとして松山空港で働いています。姉はテレビドラマ「GOOD LUCK!!」(TBS系2003年放送)に影響され、専門学校に行って整備士になったので、その背中を見て「自分も!」と。職場はバラバラですが、3人とも岐阜にある専門学校に通っていました。
檀:私は柏木さんと違って、航空業界に小さい頃から入りたかったというわけではありません。最初は金融業界に入り、そこを退職してANA Cargoのパートナー企業に転職して、関西国際空港でANA Cargoの総務に派遣され、上屋見学のアテンドなどしていました。異動で2年前に成田空港に来て、ご縁があってANA Cargoの契約社員になり、試験を受けて正社員になり今は3年目です。
金融業界にいた時は「人と接する仕事がしたい」と思っていましたが、転職時は「英語を生かした仕事がしたい」と実家近くにあった関西国際空港に目を向けました。5歳から11歳までの6年間、父の仕事の関係で米国のウェストバージニア州に住んでいたので英語が使えます。今の仕事は海外とのやり取りもあり、英語の資料を作成したりしています。
--- オフタイムは何をしていますか?
柏木:以前は仕事帰りに同僚とラーメンを食べに行ったりして反省会をしていたのですが、ここ1年ぐらいはコロナの影響もあり全然行っていませんね。僕は車通勤なので飲まずにひたすら食べる、お酒なしの反省会です。僕は空港のある成田市内に住んでおり、ゴルフ場が近くにたくさんある影響もあって、入社してからゴルフを始めました。チームは同じメンバーで動いていて、休日も一緒になることが多いので、ゴルフもみんなで行っています。
檀:空港に近い富里市に住んで、昼間の時間帯を有効活用しています。役所に行ったり買い物してから出勤したりできて充実しています。インドア派で出歩くことはあまりないので、自宅でネットフリックスを見て過ごしています。会社の人と飲む機会が減ってしまったのは残念ですね。
--- 成田空港の近くでお勧めのスポットはありますか?
柏木:サクラの季節は「三里塚さくらの丘」や「成田市さくらの山」という公園がお勧めです。航空機の離着陸が見えるのでカメラをかまえている人が多いんですよ。
檀:空港内ではないんですが、「三久楽」(さくら)という食堂のお弁当がおいしいのでお昼はいつもそこで買っています。貨物地区内にあるので、一般の方はなかなか来られないかもしれないですが…(正式名称は「和食めん処 三久楽 自家製うどんと定食の店」)。
(インタビュー当日の「成田市さくらの山」のサクラ。)
--- 最後に航空貨物に興味がある人たちにメッセージをお願いします。
檀:この業界の仕事は、きついと言われることもあるそうですが、私には全然そんな印象はありません。ちゃんと設計され、しっかり計画を立ててする仕事です。計算して一つ一つの貨物の寸法に合わせて載るか載らないかを判断するのでパズルみたいですね。旅客と違って貨物はさらに裏方の仕事ですが、ぜひいろいろな方に見てもらいたいです。
柏木:小さい頃に空港で見たのは旅客便で、貨物専用のフレーター機の存在も知らなかったんですけど、入社してからずっと貨物をやっています。フレーター機の責任者をやると、仲間とチームワークでやり遂げる達成感があります。それ以上に日本や世界の貨物の動きが分かる面白い仕事で飛行機好きにお勧めです。今は残念ながら採用活動がないのですが、採用が再開される時が必ず来るので、その時は一緒に仕事をしてみませんか!
(2021年3月取材)
(文:小島昇、写真:大橋政昭)
フリーランス記者・編集者。東洋経済新報社「会社四季報」センター記者として上場会社を取材。
インプレス「Web担当者Forum」でサイト担当者向けニュースを、アスキー「ASCII STARTUP」でスタートアップ企業の紹介記事を執筆中。毎日新聞社で経済部記者として電機メーカーや通信業界、東京証券取引所、総務・経産・国交省などを取材し、ニュースサイトの編集10年を経て2019年9月退社し独立。
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1964年生まれ。千葉県習志野市在住副業カメラマンからスタートして、2019年に独立。スクールフォト、キッズ・ファミリーフォトを多く手掛ける子供好きカメラマン。その他各種スポーツイベント、プロフィール、ビジネスサイト向け等、幅広く活動中。
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