JALスカイエアポート沖縄 稲福さん
空港には、乗客とフライトの数だけドラマがあります。
新たな旅がはじまる高揚感、故郷に思いを馳せるノスタルジーなど、さまざまな感情がぎゅっと詰まった旅客ターミナル。こうしたお客さま一人ひとりの旅路をお出迎えするグランドスタッフ(旅客スタッフ)は、空港の顔といえます。
那覇空港では、始発便(5時45分)から最終便(21時30分)までお客さまをお出迎えしています。
今回お話をうかがうのは、グランドスタッフとして那覇空港で働く稲福さん。専門学校を経て、2014年に現在の「JALスカイエアポート沖縄」入社、配属される「旅客オペレーション部」で4年目を迎えました。
現在、稲福さんは接客のプロフェッショナルを目指して、お客さまのチェックイン業務や、飛行機の入場ゲートで搭乗案内を行っています。
きらびやかな制服姿と空港の仕事に憧れた学生時代から、彼女はどのような想いでカウンターに立ち、現在に至るのでしょうか。
私たちグランドスタッフは、お客さまが旅客ターミナルから飛行機に乗り込むまでをスムーズにご案内することが仕事です。その裏では、ターミナル内を走り回ったり、時間に追われたりすることもよくあります。
--- なぜ空港の仕事に興味を持たれたのでしょうか。
実は、私の父親が航空の専門学校の先生で、グランドスタッフ科に通おうと思ったのがきっかけです。
もともと、父親の影響で子どものときから洋画と洋楽にふれてきて、バンクーバーへの留学をきっかけに「英語を使った仕事をしたい!」と思うようになりました。
専門学校に入学してからも、先生からリアルな現場の話を聞いて、楽しそうだなぁと。同時に、先生のような洗練された一流の接客を身に付けたいと思ったんです。
--- これまでの仕事の中で、印象的だったことはありますか。
入社して間もない頃、東京でOJT研修を受けたとき、「入社してくれて、本当にありがとう」と講師の方に感謝されたことです。何度も、ありがとう、ありがとう、って。本当に心打たれました。
--- スタッフ同士が感謝し合える社風なんですね。那覇空港で一緒に働く人にはどんな人が多いですか。
大学卒業と専門学校卒業、半々ぐらいですね。本当に優しい先輩が多くて、今までに怒られた記憶がないぐらいです。もう、心配になるぐらい優しい(笑)
イレギュラー(遅延、欠航など)が起きると、1分1秒を争うような現場でピリピリしやすいのですが、相談に乗ってもらえる先輩がそばにいると安心しますね。
ただもちろん、私たちの一つのミスで、多方面に迷惑をかけてしまう厳しい仕事だと肝に銘じています。
たとえば、お客さまのチェックイン業務でミスがあると、保安検査場や入場ゲートでお客さまを待つスタッフに迷惑をかけてしまう。だから、全体を意識しながら仕事に取り組んでいます。
--- お話を聞けば聞くほど大変な業務だと思いますが、どういったところに仕事のやりがいを感じますか?
接客をきっかけに、お客さまが笑顔になってくれるところです。
たとえば、那覇空港のご利用者として、沖縄本島から離島に帰られるご高齢の方が多いことはご存じでしょうか。
多くの方は何十年ぶりの帰郷のため、那覇空港に着いても、旅客ターミナルのどこでチェックインすればいいのか、搭乗口は何番ゲートなのかわからず、不安そうな表情を見せるんです。
そんなご年配の方には「何かお困りのことはございませんか?」とお声かけするよう心がけています。ときに、空港内の目的地までご案内すると、すごく笑顔になってくれるんですよね。そんな接客のひとときが、やりがいに繋がっています。
--- もちろん会社としても、お客さまへの接客に力を入れているんですよね。
はい。私たち一人ひとりがプロフェッショナルとして、お客さまに選ばれるよう取り組んでいます。
接客を通して、もっともっとお客様の旅を快適にすることもできると感じています。
--- 素敵ですね。反対に、何か大変なことや困ることはありますか。
ついつい、日常生活でも業界用語を使いそうになることです。
たとえば、居酒屋で「ラバに行ってくる」と言いそうになります。ラバとは、トイレのこと。よく会う友達には、こっそり使えるように教えたりしています(笑)
--- 今の時期は新入社員が入ったばかりということで、事務所内は良い緊張感に包まれていましたね。入社4年目を迎えて、変化はありましたか。
5月から新しい仕事としてデスク業務に入ったばかりで、覚えることが多く、正直今はいっぱいいっぱいです。
--- 後輩の育成にも関わっていくんですよね。
はい、私が所属する「旅客オペレーション部」では、今ちょうど新人に業務を教えている真っ最中なんです。
入社したばかりの子は、ここが華やかな世界というイメージが強いみたいですね。でも、お客さまのために走り回ったり、先日のゴールデンウィークはもう大変(笑)だから、理想と現実のギャップに悩まないよう、ケアをしていますね。
そういった新人育成はもちろん、後輩たちに仕事の良さを伝えるために、専門学校のインターンシップ生の教育も任せてもらっています。
4〜8名ほどの学生に那覇空港へ来てもらい、どんな仕事をしているのかを知ってもらったり、実務としてお子様の一人旅のお手伝いをしてもらったりしています。
--- インターンシップから入社してもらうまで、どの企業も苦労しているとは思いますが、どんなことに気をつけていますか。
やっぱり熱量のあるコミュニケーションでしょうか。
「入ってみないと雰囲気はわからないかもしれないけど、本当にいい仕事だから」と学生に熱く語っています。ただ正直、まだ手探りのところはありますね。
でも、この前インターンシップを受けた子から、「稲福さんと一緒に働きたいから、応募しました」と直接連絡をもらえたときは、気持ちが通じた!と嬉しくなりました。
--- 稲福さんが掲げる、個人の目標はありますか。
全国の空港で働くスタッフが接客スキルを競う「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」に出場したいです。去年、那覇空港の予選会は出場できましたが、羽田空港で行う本戦まで進めなくて。
特に、アナウンスの仕方が未熟のところがあったので、今年から入場ゲートの業務に関わりはじめて、先輩を見ながら勉強しています。空港内に響くアナウンスは早すぎず、遅すぎずに。お客さまが心地よく聞こえる速度で、正確な情報を伝えられるようになりたいです。
--- 那覇空港ならではの良さは、どういうところにあると思いますか。
心の温かさでは、どこの空港にも負けていないと自負しています。先輩との距離感が近いし、後輩とも仲が良い。空港の通路で会えば挨拶しあえる関係性があるところもそうですね。
--- そういった朗らかな雰囲気は、お客さまにも伝わりますよね。また、稲福さんらしさも接客ににじみ出てくるのだと思いますが、人との接し方で大切にしていることはありますか。
うーん、相手の気持ちを尊重することでしょうか。たとえば、お客さまからクレームをいただくとき、否定することなく、相手に寄り添うことを心がけています。それは、那覇空港で一緒に働くメンバーや他空港の方からの依頼に対しても同様に考えています。
--- すごく大人な考え方ですね。その根っこには何があるのでしょうか。
会社の目指す姿が示されているのですが、私もそれに共感しています。
会社としての考え方、それに共感する仲間が集まる、熱量のある職場だからこそ、「お客さまのために一歩前に出てみよう」と勇気をもらえるし、これから入る後輩にも、その気持ちを伝えていきたいですね。
(文・写真:水澤陽介)
フリーライター。新潟県生まれ、2013年に沖縄移住。ライターとして、地域にある「ひと・もの・こと」を中心に取材。現在は、おきなわマグネット/はたラボなどで執筆、企業広報を取り組んでいます。ライフワークとして、PechaKuchaGinowanコーディネーターにも関わる。ブログにて個人活動を発信中(https://medium.com/yosukemizusawa)