JALグランドサービス九州ランプサービス部 岩永さん
めまぐるしく着陸と離陸を繰り返して入れ替わる航空機。日本でも有数の混雑空港である福岡空港には3分に1機が着陸します。
便数が飽和状態という空港で、到着から次のフライトの準備を整え、わずか1時間弱で安全に飛び立てるのは、空の安全を支える裏方がいてこそ。
貨物の運搬や飛行機の誘導など多くの仕事に携わる、JALグランドサービス九州ランプサービス部の岩永さんにお話を伺いました。
--- 普段は意識して見ることのない裏方の仕事ですが、見学しているとちょっとした作業でも丁寧に指差し確認している姿が印象的でした。
ドアの開け閉めひとつとっても大切な仕事です。
作業車にドアがぶつかっただけでも、フライトがキャンセルになってしまいます。ドアが少しへこむだけでも機体の気密性が失われてしまうからです。そうならないように、指差しと声かけを徹底しています。
飛行機の出発時刻に合わせて仕事を終わらせないといけませんから。1機にかけられるのは50分ほどでしょうか。
次から次へと来るので、ひとつひとつのフライトの時間を守るためのプレッシャーはありますが、常に安全面を第一に考えてやっています。
--- 飛行中に外気が入り込むと、大きな事故につながりかねません。そんなシビアな仕事を選んだのはどうしてですか?
高校生のころはサッカーしかしてなかったんです。進学してサッカーを続けようか迷っていたときに、高校にひとつの求人票がきました。それがいまの仕事です。
小さい頃に、空港に連れてきてもらって見た、飛行機を車で押す仕事を思い出しました。飛行機が飛んでいく姿はあまり記憶にないんですが、押しているのがとてもかっこよかったんです。
飛行機を押すのってどんな仕事なんだろうと思い、進学をやめてこの業界に飛び込むことにしました。
--- 航空業界という特殊な仕事に不安はありませんでしたか?
不安はありませんでしたが、周りの方々の知識量に驚かされました。専門学校を卒業してくる方や、ずっと航空業界に憧れていた方が多いので、みんな飛行機に詳しいんです。
僕は飛行機の種類も知らなかったので、「747」と言われてもジャンボジェットということもまったく分かりませんでした。
それでも、入社から半年くらいして、手荷物を積んだコンテナを運ぶトーイングトラクターを1人で運転できるようになるころには、飛行機の種類も自然と分かるようになっていました。
いまではエンジン音を聞けば、どの機種なのか分かりますよ。
--- 業界に入らないと分からないことがいっぱいありそうですね。
そうですね、日常的になっていると分からなくなることが多いですが(笑)
たとえば、機内に積み込む荷物のコンテナは、すべてに番号がつけられています。置く場所が決められていて、荷物の重さでちゃんと機体のバランスがとれるように計算されているからです。
この仕事特有のジェスチャーもあります。コンテナを飛行機の前部に積むときは頭を触ります。機体の左側に積むときは指でL字をつくります。現場ではエンジン音がうるさいので、ちゃんと伝えるための工夫です。
--- 間近で接しているとエンジン音が耳から離れないでしょうね。
「イヤーマフ」という防音用の耳当てをつけていますが、はじめのころはうるさかったです。10年もやっていると、体が慣れるんでしょうね、そこまで感じません。
ただ、家でTVの音が大きいと家族に怒られてしまいます。
--- 仕事を始めてから他にも変わったところはありますか?
旅行で飛行機に乗るときは、その空港のグランドハンドリングが気になってしまいます。飛行機を誘導したり、手荷物や貨物を運ぶ作業などです。このままだと時間が足りないんじゃないかと。
あとは車の運転が慎重になりました。一時停止して発進するときに、仕事のくせで指差し確認しちゃいます。「よし」と口に出して確認するので、友達からは驚かれてました(笑)
--- 1日のスケジュールはどんな流れなんですか?
1日5便前後を担当しています。
出勤してから、その日のスケジュールを確認して現場に向かいます。シフトは16通りあって、早い日は午前5時半に出勤です。仕事が始まると5〜6時間は現場に出たままです。
3人1組でチームを組んで、飛行機の誘導や機体のけん引、現場での搭載作業の監督業務を行ったり、ほかのチームのサポートでコンテナの積み降ろしや手荷物の仕分けなどもやります。
仕事内容の幅が広いうえに、牽引車などの操縦は、飛行機の大きさにあわせて車が変わるので、かなり種類が多いです。作業内容が多いうえに、いまは福岡空港が建て替え中で、使える通路が数ヶ月で変わることもあって覚えるのも大変です。
休憩のときは同僚たちとバカな話もします。そうやってリラックスしますが、ヘルメットをかぶったら目の色を変えて仕事をするように意識づけています。
福岡空港は便数が多いので、自分たちの作業が遅れると、そのフライトだけでなく、ほかの多くのお客様に迷惑をかけることになってしまうので、そうならないよう気を引き締めています。
--- 覚えるだけでも大変そうです。よくミスが起きませんね。
コンテナを積み込む作業の責任者をしているときに、ヒヤリとしたことがありました。
そのときは嫌な予感がして、荷物をすべて積んでから出発直前に1度閉めたドアを開けました。時間があまりなくて焦って作業していたので、嫌な感じがしていたんです。
本来はコンテナにロックをかけて固定しておくのですが、確認すると、ロックがかかっていないものがありました。
グランドハンドリングの仕事はちょっとしたハプニングというものがなく、すべてがお客様の安全に直結してしまいます。
--- 安全に直結するうえに、時間を守るというプレッシャーと毎日戦っていると思いますが、どのような人がこの仕事に向いていると思いますか?
焦らない人ですね。予想外のトラブルが起きたとき、動揺せずに冷静に動けるような人が向いてるかもしれません。
安全確認に不安があるときは、定時運航から遅れてでも、すべての作業をきちんと終えるようにしています。もちろん定時運航も大切ですし、作業によって便が遅れてしまうのは申し訳ないと感じますが、安心してお客様と飛行機を送り出せることが一番大切だと考えています。
「定時で出発するために1つの安全確認作業を省くくらいなら、しっかりと安全確認を行って1分遅らせなさい」と先輩方から教わってきました。その1つの安全確認作業を怠ることが事故につながる可能性を秘めているからです。
--- この仕事の好きなところや醍醐味はなんでしょうか?
グランドハンドリングだけでなく、整備や航務、そのほかのグランドスタッフと力を合わせて飛行機を飛ばすことです。飛行機を見送るときに見られる、お客さんの「いってきます」という笑顔に毎回感動します。
それと、やっぱり、飛行機を押せるということに尽きます。バックすることのできない飛行機を動かすというのは、自分たちにしかできない仕事なので、魅力的です。
コクピットに入って作業するスタッフはほかにもいますが、押せるのは自分たちだけという誇りを持ってやっています。
今年で30歳になるのですが、これからは新しく入ってくる後輩の育成にも力を入れていきたいですね。
(文・写真:若岡 拓也)
ライターのほかに、福岡県上毛町で地域おこし協力隊として活動しつつ、砂漠や山岳を走る海外のランニングレースに出場している。250kmを走るレースが中心で体力の求められる取材はお手の物。最近の悩みは、どれが本業なのか分からなくなってきていること。