空港の裏方お仕事図鑑

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20t級のフォークリフトを操る4歳児のママ。航空貨物を支えるグラハン女子の「道しるべ」になりたい

ANA成田エアポートサービス株式会社 鈴木さん

写真:鈴木さん

飛行機が運んでいるのは人だけにあらず。床下の貨物スペースを利用して多くの航空貨物が輸送されています。
乗客が目にすることのない場所にある「上屋(うわや)」という貨物の倉庫兼作業スペース。国内外への出発を待つ大量の貨物の間をキビキビとフォークリフトが行き交います。

その上屋で、飛行機のエンジンも運べるという20t級のフォークリフトを操るのが、ANA成田エアポートサービス株式会社20年目の鈴木さん。聞けば、操縦技術を競い合う「航空連合フォークリフト運転競技会」のチャンピオン、そして4歳の女の子のママというから驚きです!

20年間、鈴木さんを魅了し続けた「航空貨物」とはどのような仕事なのでしょうか? お話を伺ってみました。

体力だけじゃない!頭もめいっぱい使う日々

--- 入社から20年、航空貨物一筋の鈴木さん。この世界に飛び込むきっかけは?

高校生の時に友人に誘われて空港に遊びに来て、その国際色豊かな環境にすごく魅力を感じたんです。
デスクワークより体を動かすことも好きだったので、「空港で仕事がしたい!」と旅行科エアポートビジネスコースのある専門学校に進みました。その時にグランドハンドリング(グラハン)の仕事を知り、やってみたいと思うようになりました。

入社前は、航空機の誘導に憧れていましたね。航空機を誘導する「マーシャラー」は、やはりグラハンの花形ですから(笑)。でも、最初に配属されたのが、同じグラハンでも航空貨物の部署で、国内から海外へ輸出する貨物を扱う輸出上屋でした。
「誘導ではなく、貨物か・・・」とはじめはガッカリしていたのですが、やってみると想像以上に楽しく、仕事の魅力に引き込まれていきました。

最初はフォークリフトにも乗れなかったので、ひたすら全国からトラックで運ばれてくる貨物を書類と照合し搬入する作業を担当していました。
でも、フォークリフトの免許を取ってからは、トラックから素早く貨物を取り降ろしたり、パレットやコンテナに積み付けたり、ドーリーの牽引許可資格を取ったりと、要所要所でステップアップできる資格を取り、作業範囲はどんどん広がりました。

写真:鈴木さん

--- 憧れの貨物専門会社NCAでの上屋配属、女性第1号の苦労は?

もう毎日が必死(笑)。でもその感覚が好きでしたね。一緒に働く上司、先輩、同僚にも恵まれました。うちの会社でNCA上屋に配属された女性は、私と同期の3人が初めてでした。私たちはそんなに意識していませんでしたが(笑)、上司や先輩方のほうが心配して、色々な面で気を遣っていただいたと思います。
体力的な部分は、若さで乗り切りましたね(笑)。元々身体を動かすことが好きでしたし、やること全てが新鮮でしたので、楽しい想いのほうが強かったですよ。

入社7年目に、ANA貨物輸入上屋へ異動の打診がありました。輸入上屋に入る新人社員のインストラクターの役割を任されました。その輸入上屋では、飛行機で運ばれてきた貨物を国内のお客様に引き渡す作業があります。

お客様からは、「早くこの貨物を引き渡して欲しい」と催促されることも多かったです。忙しい時期になると、その数は1日何百件にも。ご要望を踏まえつつ、限られたリソースを使って、貨物をどの順番で出したらよいのか、非常に頭を使う仕事でしたね。
交渉だけでなく、あまりにもお急ぎの時には、自分で到着したばかりの機体の横まで車を走らせて、1つの貨物を取出して、急いでお客様に渡したりなんてこともしていましたね(笑)、その場でできる最善を尽くして。

--- 「コミュニケーション力」と「テトリス」の頭脳プレー駆使し、現場で考える力つく

まず、「日頃のコミュニケーションの大切さ」を学びましたね。日常から貨物を「どうぞ」と渡すだけではなく、各社の担当者とコミュニケーションを密に取っておくことで、繁忙期に「あれを先に出して貰えれば、これは後でもいいですよ」と、全体最適にご理解を頂いた柔軟なやり取りができるようになりました。

輸入上屋で貨物の解体など指示を出すコントロール業務では、全体を見渡して判断する力もつきましたね。GWやお盆時期、年末年始など、大量に貨物が上屋に搬入されると、貨物量に対して十分なスペースがなく、作業場所も狭くなります。さらに、屋根がある作業スペースも有限なので、天気とも戦いです…。
その中で、優先順位やそれぞれの貨物の情報を考慮して、うまく工夫をしなければなりません。「この貨物が出るから、そこに次の貨物を入れて…」とまるでテトリスみたい(笑)。
貨物についてのお客様情報を頭に叩き込んで、広い上屋のなかをずっと常に動き回っているので、隅から隅まで自分で把握していたんです。あるとき万歩計で測ったら、2万歩を超えていてビックリ(笑)。

写真:鈴木さん

それに、上屋での作業は複数の協力会社の方達に依頼しているのですが、現場の責任者として、20代後半から協力会社の方達との連携も図りながら、いかに円滑に仕事をするかを考える経験もさせていただいていました。
相手のやり方を尊重しつつ、お客様の要望も通す。自分より年齢も経験も上の男性も多くいましたので、「折衝力」や「調整力」も磨かれたと思います。

天気、飛行機の時間、貨物の量、スペース、お客様の都合、など、色々なジレンマもありました。でも、一人でできるものではないので、周りに協力してもらうためには、信頼を得て「待つことも大事」と、現場で考える力がついたと思います。

--- 「時間との勝負」の毎日、ストレスとの付き合い方

基本的に楽観的なのですが、「時間との勝負」な仕事柄、非常にお急ぎのお客様からは、強めに言われることもあります。でもその時は、「そのお客様はさらにその先へ届けるために頑張っているのだ」ということを想像し、対応するように心掛けています。ただ、一緒に働く仲間たちとの現場でもあるので、折れるのではなく妥協点を粘り強く探る形ですが。
それに、日々のお客様とのコミュニケーションのなかで、「ありがとう」、「あ、今日は早いね!」とか労いの言葉をかけていただけますので、それも励みになっています。

毎日、「確認、確認、また確認」で、「ミスが無いのが当たり前」なので、「ああ、今日もスムーズに一日が終わったな」という安心感で十分。翌日には前日の【搬出量(搬出件数・個数・重量)】が報告されますので、「昨日も無事これだけ送り出したんだ。よし!」なんて、叩き出した数字を見て達成感を感じたりとか。ストレスを残さず、はねのけていますね(笑)。

また、グラハンの同期や仲間とご飯を食べに行ったりするのが大切な時間です。
同期は何かあった時に相談できるので本当に大切な存在です。あと実は、それだけじゃなくて、仕事でライバルという意味でも、良い刺激を受けているんですよ。

産休から復帰。好きな仕事ができるとワクワク

写真:鈴木さん
後列右端が鈴木さん

--- 産休・育休の不安なく、復帰後は夫に感謝

多少不安はありましたが、妊娠の報告時も勤務を配慮して貰いましたし、復帰後も同様に配慮いただいているので問題なかったですね。

復帰直後は、保育園の送迎もあるので時短勤務。現在は、月に16日ほど休みがある短日数での勤務です。朝5時半から夜22時の間でのシフト勤務なので、保育園の送り迎えができないときは主人にお願いしています。
主婦業では手抜きもしょっちゅうで、特に食事はひどいものです(笑)。私が朝5時半から勤務のときは主人が子どもの食事を作って保育園に送ってくれるので、主人にはとても感謝しています。

--- 子育てとの両立だからこそ、気づいたことなどありますか?

20代では仕事で30キロの貨物を持ちあげても全く平気だったのに、子どもを抱っこするようになって腰痛になりましたね。

いま、ANAの輸出貨物の部署にいますが、「体力的に20代の頃はよくやっていたなぁ」としみじみ思いますね。仕事の仕方も、無理をしなくなりました。人に任せる柔軟さも覚えましたし(笑)。

会社に来ることでバランスが取れていますね。育休から復帰するときも「また仕事ができる!」とワクワクしていました。職場では楽しくてリフレッシュできるので、家に帰ってもニコニコしたママでいられます(笑)。

--- 「カッコイイ!」子どもが喜んだママの制服姿、吹奏楽で生まれた交流

働いている現場ではないのですが、制服姿は見たことがあります。「カッコイイ!」と言ってくれました。
社内広報誌がきっかけで加入した同好会活動で吹奏楽をやっているのですが、空港のイベントに出演した時に見に来てくれたのです。ステージでは、メンバーそれぞれが現場の制服を着て出演するんですよ。

私は中高生のときからユーフォニウムを担当していたのですが、久しぶりにまた演奏ができて、本当に楽しいです。それに、吹奏楽で社内の横の繋がりができたことも嬉しかったですね。
仕事上、他部署のことでわからないことがあっても、吹奏楽の仲間に聞けるようになり助かっています。

気負いなく積み上げ、自分が「道しるべ」になればいい

写真:鈴木さん

--- まだまだ勉強、機側業務にチャレンジしたい

復帰後、輸入から輸出の上屋に変わっただけでなく、これまでの作業に加えて貨物の搭降載を行う機側作業も一緒におこなっている部署に異動しました。
私は入社以来ずっと航空貨物畑で、機側業務に必要な資格をほとんど持っていないので、今後は勉強して機側作業も行えるようになりたいです。
後輩たちが成長したり先に進んでいるのを見て、「このままじゃいけない」と焦ることもありますね。

それでも、へこたれずに長くこの仕事を続けていきたいです。10年後も貨物の現場で続けていけるのか、まだわかりませんけど、自分なりに焦らず、進んでいこうと思っています(笑)。

--- 「女性初のNCA上屋配属」で「航空連合フォークリフト運転競技会優勝」も「子育てと両立」も「吹奏楽」も、できないことはない!

「女性初のNCA上屋配属」という気負いはありませんでしたね。むしろこの20年、航空貨物の職場で目の前のことに淡々と取り組んできました。日々、大変なことや将来の不安ももちろんありますけれど、それをサラッとやりこなしていくのが好きみたいです(笑)。

元々楽観的な性格なのか、男性ばかりの現場にも怖気づくことなく溶け込んでいましたし。先ほど少し弱音も吐きましたけれど、結局は「できないことはない!」と思いながら続けていくのだろうと思っています(笑)

今年度も女性の新入社員が5名配属されました。私が航空貨物の仕事をずっと続けていくことで、後輩の女性たちの「道しるべ」になれればいいですね。

航空貨物は日本の物流を支える誇りを感じる仕事

写真:鈴木さん

--- グランドハンドリングの貨物業務に興味を持たれた方へメッセージ

空港業務の中でも、まだまだ航空貨物の仕事は知られていません。でも、日本全体の物流を担う、とても楽しくやりがいもある仕事です。扱う貨物も生鮮食品から動物、精密機械まで幅広いため、取り扱いも毎回工夫が必要です。

以前、半導体を製造する精密装置の輸送を引き受けたことがあるのですが、ちょっとした振動も厳禁。一つの部品が壊れても全体に影響が出るため、とても慎重に取扱をしなければならず緊張しましたが、無事に終えた時に達成感がありました。

そのような貨物を受託できることは誇らしいことですし、そのために日々学ぶことは多いです。日々搬入される貨物を見ながら、世界の経済の動向を垣間見られるのもこの仕事ならではの面白さです。

フォークリフトの運転などのイメージが強いですが、実は人とのコミュニケーションや、工夫しがいのある、柔軟な学びの多い職場です。ぜひ航空貨物の醍醐味をたくさんの人に興味を持ってもらい、一緒に働く仲間になってほしいと思っています!

(文・写真:三本夕子)

ライター:三本夕子

フリーランスで企業の広告制作、広報などを手がける。中でも働く人の取材はライフワーク。13年間で取材をした人の数は1000人以上にも上るが、空港の裏方の仕事を取材するのはお初。貴重な機会に、取材前日はワクワクして眠れなかったほど。

YouTube動画解説

写真:YouTube動画スクリーンショット

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